ピアノの世界 ページ15
(もしかしたらこの二人、天馬司へ至る道に不可欠なのかもしれない)
演奏を聴いてそう思った。音も取れていなければ正しいのが何かわかっていない演奏の仕方。それはもう酷いものだったけれど。
(この二人の音には魂がある。心が──天馬司がかつて見せた、輝きの片鱗が見える)
それは、ボクがどれほどピアノを弾き続けても得られなかったもの。鍵盤に手を滑らせた。演奏が始まる、セカイが星で満ちる。
「わぁ……!」
「セカイが、光り輝いて……」
「すっごく綺麗なのだわ!」
一節進む毎に、セカイの輝きは優しく小部屋を包み込んでいく。レンが足元からふわりと舞う光の球に触れる。リンが星々の照明がきらめく様を嬉しそうに見つめ手を伸ばす。
優しい音は寂しさを跳ね飛ばして、悲しみを癒すのだ。ボクはそれをよく知っている。そんな曲だけを覚え続けたこの二人が、どれほど善良なのかも分かる。そしてそれがどれほど孤独だったか。
(──このセカイの、ほかの人とやらが。どうして彼らを残したのか分かるかも)
二人だったからというのもあるのだろう。
ボクの知る限り、『MEIKO』や『初音ミク』等ほかのキャラクターには相棒としてセットされているものがいない。
「すごい、すごい! 前に戻ったみたいだ!」
「お兄様達がいた頃のようね、レン!」
「そうだねリン! ご主人様はすごいなぁ……!」
最初はこちらを警戒するそぶりを見せていた──うまく騙していたようだけれど、レンの目はずっと笑っていなかった──レンが本当に嬉しいと言うように声を上げると、リンは涙ぐんでレンにぎゅうっと抱きつく。
(彼等には何かがある。ボクが得られず──きっと他の誰も得られなかった、心という才能が)
空虚なはずのボクのピアノが輝き始める。一音一音にレンとリンが喜んで、その喜びを含んでその演奏は完成する。
『ほかの人たち』は、ボクがそんな二人を気に掛けると分かって残したらしい。
演奏が終わる。最後の一音を弾き切り、また静寂が満ちる。
けれどボクは、その静寂が心地のいい余韻であることを知っていた。
「「──すごーい!!!」」
「どわっぷ」
「すごいすごい! すごいよご主人様!」
「久しぶりに聞けた音がこの美しい音なんて、私とっても幸せですわ!」
「僕、君のこと大好きになっちゃった!」
また、両隣からぎゅうっと抱きつかれて姦しく騒がれた。ピアニストの耳は繊細だって言ってるだろ。レモンピールの爽やかな香りがする。やめて。
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ゆめ(プロフ) - りんごさん» 本当ですね! 訂正しておきました。ご指摘ありがとうございます! (2022年10月25日 7時) (レス) id: cefb73a9d4 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - オリ,フラ立ってますよ! (2022年10月25日 6時) (レス) id: 40f7098858 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:文字書きの端くれ | 作成日時:2022年10月25日 0時