【アネモネ荘にようこそ】←の派生小説ですよ

我が儘の中身。 ページ17

「……ひとつだけ、我が儘を宜しいですか？」
「いいわよぉーひとつと言わず幾らでも！でどうしたの？土地ほしい？持ってく？」
「ち、違うけど……」

紙ヤスリかな？って位に全力で頭を撫でてくる天照大御神様の言葉を否定して、わざとちょっと溜めさせる。
あの、えっと、と天照大御神様の袖口をきゅっと掴むのも忘れない。


「こいつ、まだもうちょっと生かせませんかね？」

世界が時を止めたのかと思うくらい、重厚な沈黙が支配した。

ポカンとしていた大神様だったが、がっと肩を掴んできて、真剣な顔で「正気？」と聞いた。
この人は、まわりの意見を否定しない。
どうしてそう思ったのか、まず聞くのだ。

「正気、です。」
「なら、どうしてそうしたいと思ったの？」
問われる。

うぅん、と唸りながら心臓辺りを撫でた。
僕は心臓に刻印があり、そこが邪神の棲み家となっている。

……仕方ないな。貸してあげる。

「寂しい、悲しい。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。


うまれてきて、ごめんなさい」

ポロポロと涙をこぼし始めた僕をみて、ぎょっとした天照大御神様は慌てて涙をぬぐってくれた。

「ど、どうしたの結香！なにか悲しいことがあったの！？」
「いや、いや、何であいつばっかり」

だんだんと胸を占める悲しみが、憎悪に塗り変わっていく。
どす黒いものが心を支配しそうになり、僕は歯を食い縛って繋がりを切った。

「ッハァ、はあ…………すみません。天照大御神様
先程のが、貴女方の言う邪神の原点に御座います」
「邪神の……？」

そう。僕が殺した邪神は、僕が幼児化したときに僕の霊力を喰らって少しだけ大きくなった。

それが、今の邪神だ。
幼児のように単調な思考しか流れてこないが、それが何だか悲しいものばかりだったから。
名前は教えずに、たまに彼に語りかけていたのだ。

……ほら、怖かったな。もう大丈夫。僕が守ってやるからな。

「……すみません。実は、この残りカスみたいな邪神なんて、すぐに消せたんです」

結界で僕が守っていたのは、本当は僕の体ではなく、この邪神だった。

「消せって言うなら、消します。
……僕が磔刑になるべきなら、なります。
ごめんなさい。あがきたかっただけなんです」

ポツポツと話すと、暖かい人に抱き締められた。


「あんな馬鹿男達など、妾が抑え込んでやるから。もう大丈夫じゃよ、結香」
辛かったのう……優しい子じゃ

その日僕は、久々に涙の味を知った。

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