#ONE FOR 10,_10 FOR ONE (ページ49)

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母を思い出す人⑦ ページ49

-SIDE：Haechan

ヌナは優しい

アイドルの世界にはそぐわない良さがあって
だからファンもこの人に着いていきたいと思うんじゃないかな
道徳観がしっかりしてるというかさ

でも、優しすぎて時々、損をする性格だとも思う

本当に母のような人だから
ファンに対しても、周囲の人間に対しても

聖人と言うには、いたずら好きなところがあるから
僕はそう称さないけど
きっとそう思う人もいるだろう

だから余計に心配になるんだよ

周囲からの愛され方とアイデンティティとの誤差に対して、
いつか限界が来るんじゃないかって

年上の人なのに、自然と背中を支えてあげたくなるような
そういう意味でも母さんみたいで
時々疲れた背中を見ると泣きそうになったりもする

僕にとってはそんな人

さっきみたいに同じ言語同じ環境で育ったユタヒョンが羨ましくなって妬いてしまう時にだって
面倒くさいって突き放せば良いのに、ヌナは律儀に"今、一緒にいるのにどうして悲しくなるの？"って真剣に言ったりする

そういう風に思わせぶりでLady‐killerなとこ
実はあんまり好きじゃないんだけど(笑)

目の前にある小さい頭をそっと撫でる

「ヒョン、長生きしてね」
「…あんたに言われるとは思わなかった」
「何で？(笑) 僕がまだ10代だから？」
「そうだよ～これが親に言われるならまだしも…」
「僕は年下だし、ヒョンの親でもないけど…本当の家族みたいなものだよ」

こういう話をすると、最近すぐ泣きそうになるヌナ

「ヒョンも普通に過ごして。会社がどうとか、周りがどうとか、そういう事を考える事も大切だけど、ヒョンはヒョンでしょ。決して僕達を一番に考えたりしないで」

チャルラヒョンの瞳が揺れる

「僕がヒョンが好きだな～、面白いな～って思う事、全部してあげる。だから出来る限り、ありのままのAサンでいて欲しい」

"分かりますか？"

そう言って締め括ると、ヌナは僕を抱き締めた

突然の事に、僕の頭は一瞬真っ白になる

『…ありがとう、ドンヒョク』

首筋にヌナの顔が埋められた時、水滴のようなものが当たって
泣いてるんだって分かった

「あ…、日本語だった。ごめん」
「ううん。別に良い」

僕はヌナの頭にそっと頬を寄せる
それがその瞬間の僕に出来た最大の愛情表現だった

いつもと違って締め切られたヌナの部屋で
ヌナが僕の隣で泣くから、
色んな事を思って胸が締め付けられる

「ヌナ、僕まで泣きそう」
「泣いたら良い。我慢するより良い」