日常の、一歩先を【実況者】【短編集】 (ページ2)

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降り出した雨、ささやかな秘密【twhs】 another side ページ2

「ふたりで2本の傘を使えば自由に使える手はふたつだけ。
でもさ、ふたりで1本の傘を使えば手がみっつ空くからお得だよね」

小さな期待を胸に、靴を履こうとしている小さな背中にそう声をかけた。
相合傘がしたい。それだけのためにもっともらしい理由をでっちあげるほど、自分はヘタレだったのである。

家を出てしばらく天気が悪化することはなかったが、帰る途中で雨が降り始めた。
自分の右を歩く彼女の両手には、自分のものより軽い買い物袋が一つずつ握られている。
対して自分は買い物袋がひとつに傘が1本。
結局、ふたりで持ってきた傘は1本だけだった。

「はすくん、傘おねがい」
「はいよ」

ひらいた傘に入るよう促すものの、当の彼女はなにやら考えに耽っているようで気づいていない。
濡れてはいけないと思って少し距離を詰めるが、やはり反応はない。

平気な風を装ってはいるものの、おそらく自分は緊張で顔が赤いし挙動もおかしいはずだ。
そういった恥ずかしい諸々に気付かれないのは助かるけれど、なにも反応がないのは寂しいものがある。
と、そのとき。何を思ったか、彼女がくすりと笑った。

「Aちゃん、どうかした？」
「ないしょ」

また雨の日に買い物いきたいな、と笑う彼女には、自分の考えはお見通しなのかもしれない。
まわりくどいことしないで、次こそはちゃんと誘おう。そう、心に決めた。