日常の、一歩先を【実況者】【短編集】 (ページ1)

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降り出した雨、ささやかな秘密【twhs】ページ1

＿＿ふたりで2本の傘を使えば自由に使える手はふたつだけ。
でもさ、ふたりで1本の傘を使えば手がみっつ空くからお得だよね。

出かける間際になって彼はそんなことを言い出した。
わたしは突然のことで少し驚いたものの、すぐにその意図が読めた。
「そうだね。帰りは荷物多くなるだろうし、1本だけ持ってこうか」

数日分の食材を買ってスーパーを出ると、次第に雨が降り出した。
家を出るときはまばらだった雨雲が、今では空のほとんどを覆っている。

「はすくん、傘おねがい」

はいよ、と荷物を持っていない右手で彼は傘をひろげた。
しばらく一緒にいてわかったことだが、彼は「恋人らしいこと」があまり得意ではないらしい。
キスはおろか手をつなぐのにもガチガチになってしまって、毎度深刻な表情で「手、つないでもいいかな」なんて訊いてくる。
そういう律儀なところも、あとで薄くはにかむ顔も大好きだ。

そんな恥ずかしがりの彼のことだから、きっと今どんな状況なのかわかってないんだろうなあ、と少し可笑しくなった。
「相合傘をしている」だなんて分かっていたら、照れて平気ではいられなかっただろう。

「Aちゃん、どうかした？」
思わず笑ってしまったわたしを、不思議そうに緑がかった目が見つめる。
「ないしょ。……また、雨の日に買い物いきたいな」
相合傘だねなんて言えば、きっと彼は恥ずかしくなって次からもう1本傘を持ってくるようになってしまう。

どうかもうしばらく気付かないままでいてくれますように、と小さく祈った。