９４話 大きく手を [櫻井] ページ20
視界がじわりと滲んでいく。
境界線のぼやけた道を、またゆっくり歩き出そうとして
智「待って」
智くんの声に呼び止められた。
振り向いた時には
すっかり明るい太陽に照らされた智くんが
上手く見えなくて、目をこする。
智「翔くん、俺……ありがとう」
「…ぇ」
声が掠れて、智くんが聞き取れたかどうかは分からない。
でも、ふにゃりと笑うのが見えた。
智「ほらまたその目だ」
「…うん…」
智くんがチラっと目線を送った先に
再びあの黒猫が見えた。
首輪の鈴が高い音を二度鳴らす。
別れの時を間近に感じた。
智くんの首からさがる懐中時計は
智くんの体を包む勢いで金色の輝きを放っていた。
そっと手の平を上に向けて伸ばす。
パチン。と音を立てて
智くんが俺の手を握った。
智「…夢でも、夢じゃないよ。きっと消えない」
受け止めた手の平が
いろんな感情を全て押し殺すように、震えていた。
智「翔くんが知っててくれる限り、消えない」
ニノや相葉くん、松潤の顔も一緒に
閉じた目の中に映して頷く。
「…うん」
忘れたくない思い出。
消えてしまうのが怖いというニノは、正しかった。
消えた方が楽だという相葉くんも、きっと正しい。
智「ほんなら…最後までちゃんと見てるから」
パッと笑った智くんが
金色の光に包まれて
広げた羽で空へ舞い上がった。
それを見上げながら、すう…と息を吸えば
夏の匂いが全身を巡っていくようで
すごく穏やかな気持ちがした。
もう一度、反対へつま先を向けると
誘うように鈴の音を鳴らす猫が、少し止まって俺を見て
ゆっくり
ゆっくり歩いていく。
この道を引き返せば
もしかすれば俺は死なないかもしれない。
だけどそうしないのは
今動いているこの足が
本当に自然と俺を連れて行くから。
強迫観念とか、そんなんじゃない。
ただ、行きたいと…そう思うから。
猫がもう一つ角を曲がる。
俺があとを追うと
小さな飼い主が両手を広げて猫を迎えた。
ああ、そうか。
引き返さなくて良かったと、一瞬で、悟った。
運命なんて言葉の意味は
いまいちよく分かんないけど
きっとあるのかもしれない。
腕をすり抜けた猫を追い
駆け出した少年のあどけない顔。
朝一のトラックの音を聞きながら
少年よりも先に
猫に大きく手を伸ばした…
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あかり - ぜひ見させていただきます！！ (2015年8月9日 21時) (
レス) id: 1ac7fc90e9 (このIDを非表示/違反報告)
ふみちゃん(プロフ) - あかりさん» そう言っていただけると本当に嬉しいです！よければ他の作品もよろしくお願いします。 (2015年8月9日 20時) (レス) id: f36ed0f5f4 (このIDを非表示/違反報告)
あかり - とてもおもしろかったです！完結おめでとうございます((o(*>ω<*)o)) (2015年8月5日 21時) (レス) id: 1ac7fc90e9 (このIDを非表示/違反報告)
ふみちゃん(プロフ) - 花夜さん» 花夜さん、ありがとうございます。今後の励みになります♪ (2015年7月30日 22時) (レス) id: f36ed0f5f4 (このIDを非表示/違反報告)
花夜 - 凄く面白いです!!! (2015年7月27日 15時) (レス) id: 7e159a367e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ふみちゃん | 作成日時：2015年5月20日 17時
