Bon voyage 2 (∞) (ページ5)

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糸 ⑤ ページ5

Side black

頭に血が、のぼった。
プロデューサーにも自分にもイラついた。

「ヨコ、とりあえずこの仕事終えてからや」

「分かってる…」

なんでこんなやつがオトナなん。
なんでこんなやつに俺らは評価されてるん。
なんで周りのスタッフは止めへんの？
おかしいと思わへんの？逆らえへんの？
自分が大事なん？

…なんで、なんで俺は、
慣れたように無表情でメイク直させるくらい、Aにこんな思いさせてんの？

もっと早くどうにかできてたら
Aの強さを過信せんかったら
もっと、俺らに頼ってくれてたんちゃうん。

「…っ」

そら頼りないわ。
今までがそうやったもん。

悔しい。
悔しい。
悔しい。

「…オッケーです！以上になります！お疲れさまでした！」

「「お疲れっした～」」

何事もなかったかのように、プロデューサーの前を突っ切って楽屋にもどる。

ぞろぞろと戻ってくるメンバー。
ここ最近の楽屋はいつも、空気が重たかった。

「ヨコ、」

「…A、もう我慢せんでええ。我慢すんな」

「…」

情けなかった。

Aは俯いて、黙り込んでて。
うまいことかける言葉も見つからへん。

「…今まで通りじゃ、あかんの」

「え？」

「みんなに嫌な思いさせてるのは、私がオンナやからやろ？私が私じゃなかったら、オトコやったら、こんなこともないんやろ？」

「何言うてんねん」

「でもそんなん変えっこないし、だからぜんぶ引き受けて今までやってきたんやんか。…なんで？なんでいまさら変えるん？こんなん慣れっこやもん。私がどうにかしたらっ…」

そのとき、やった。
すばるがものすごい勢いで、Aの胸ぐら掴んだんは。

「すばる！」

呆気にとられる俺らをよそに、二人は至近距離で睨み合って。

「泣けや」

「…」

「悔しいなら歯食いしばれ。悲しいなら泣け。ムカつくんやったら怒れ。…ほら、泣けや。あ？」

「…」

「…性別から逃げんな。お前はお前から逃げたらあかん。ぜったい。何があっても」

暗い色の目から、涙が落ちたんをそのときはじめて見た。

「……オンナ、でごめんなさい」

「しばくで」

「……私が、私、で。…ごめ、なさ…」

「しばかれるか襲われるか選ばしたるわ」

「…」

「どっちにすんねん」

「……ギュって。すば、く…」

「ん」

そっからしばらくは、すばるの腕の中で泣いとった。