Bon voyage 2 (∞) (ページ2)

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糸 ② ページ2

Side orange

一度だけ、聞いたことがあった。

「なんでそんなに強いん？」って。Aに。

やって僕ならぜったいへこんでることでも、無表情で受け止めて足を動かすし

Aがぜったい悪くないことを責められても、温度のない声で謝るし

当時は確か、「そう見える？」って。Aは言ってた。

いちばん覚えてるのは、先輩のバックダンサーとしてお仕事に呼ばれたときのこと。

亮ちゃんが泣きそうな顔してたから、どうしたん？って聞いたら「衣装がない」って。きっと亮ちゃんをよく思わへん他のJr.の仕業やっていうのは、すぐに分かった。

きっかり人数分しかない衣装
慌ただしく動くスタッフ
時間はもうあらへん

そんなとき、やった。

「りょー、これりょーのやろ？」って。
Aが衣装抱えて亮ちゃんの前へ。

「はよ着替えな、出番やで」って言うた彼女に、亮ちゃんは「ほんまありがとう！」って、それを受け取ってソッコー着替えて。

「…は、なんでお前着てないん」

着替えを終えて戻ったらスタンバイ。
亮ちゃんの声に振り向くと、ジャージ姿のAがおった。

理解するのに時間はかからへんかった。

Aが亮ちゃんに手渡した衣装は、彼女に用意された衣装やってん。

「…エンターテイメント、やで。お客さん喜ばせてなんぼやろ？ジャニーさんよお言うてるやんか」

「…そういうこと、ちゃうやん」

「見返してきて。りょーならできるよ、ぜったいできる。…だから、」

カウントダウンが、始まって

「…がんばれ！勝て！」

僕らに照明があたった。

心配で、横目に亮ちゃんを見ると
噛み締めた唇と握りしめた拳にチカラが入って。

でも、次に見えたのは真っ直ぐな視線。

カッコ良かった。圧倒してた。

…でも、だからこそ、僕の頭の中には

Aのボロボロになったシューズとか
雑に巻かれたテーピングとか
時間気にせず練習してるって大倉に聞いたこととか

そういう、断片がずっと過って。

ステージを降りると、Aはもうおらへんかった。

「…マル、」

「ん？」

「みて」

僕らの荷物の片隅に置かれたドリンク。

亮ちゃんはそれをギュって握って

「…ぜったいしばいたるねん、あいつ…」

って。涙堪えてたから頭撫でたら、その手をはたかれた。ざんねん…。