Bon voyage （∞） (ページ42)

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戦友 ② ページ42

Side orange

楽しかったのに
嬉しかったのに

今はまるで、暗闇にいる気分やった。

なんで出来ひんの？
おんなじところで何回も、つまづいて。
そこがクリアできたと思えば、また違うところ。

みんなの笑い声に耳を塞ぎたくなって
カチカチになった指先にも、苛立って
Aのこと悲しませたくなかったのに。

やめるなら、僕だけでいいはずやんか。

「リハやけど本気でやるぞ！」

「おー！」

また間違えたらみんなに迷惑かかるよなあ。
出来ません、ってもっとはよ言うたらよかったんかなあ。

…あかん、集中せな。

大倉のカウント
亮ちゃんとヤスのギターが重なって
村上くんのキーボードが心地いい
裕ちんのパーカッションもアクセントになってて

ベースの音なんて、ちっぽけで
自分のことみたいやなあ、って情けなくなったときやった。

「っ…」

すばるくんの歌声が心臓に突き刺さって
反射的に視界が滲むのを感じた

ベース持ってる手が、震えてる。

咄嗟に前を向けば、小さいはずやのにその背中は大きくて

僕は、
…僕は。

「マルちゃん」

「……A、ごめんな」

「…ううん」

「…ベース、やりたい。僕、ベースやりたいねん。支えたいって思った。すばるくんの背中みてたら、声聞いたら、僕。…ちっぽけかもしらへんけど、」

「…」

「代わりがたくさんおるんも分かってるけど、譲りたくないって思った。みんなと音楽やりたい、って…A？」

Aが僕の手をとって、ギュって握った。
どんな顔してるんか、下向いてるから分からへんけどその手は、あったかくて。

「…もし、この先。何のためにベース弾いてるか分からへんようなったら私のために弾いて？そしたら私はマルちゃんのために、ベース弾くから」

「…っ」

「そしたらすばるくんもお兄ちゃんも、ヒナちゃんも章ちゃんも、りょーもたつも。…私らのために音鳴らしてくれるよ。ぜったい置いて行かへん」

「ん、うん…っ」

「へへ、ベーシストって検索したら出てくるくらいになろうなあ！」

そして迎えた本番前、ガッチガチに緊張してるとすばるくんがやってきた。

「マル、」

「…はい？」

「…俺が歌えるんは後ろにお前らがおるからやで。楽器の話ちゃう。…一人一人が俺の歌になるねん。やから、」

「…」

「俺に歌わせて。お前の音で」

「…はい！」

すばるくんに惚れるのは時間の問題でした。