Bon voyage （∞） (ページ32)

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ハラハラ ② ページ32

Side red

気にしてへん、言うのも明らかな嘘になるってAは分かってた。やからいつも、「そのうち飽きるやろ」って平然というてた。

「A、メシ」

「最後まで言うてよ」

「はよせえ」

デビュー目前やと肌で感じていたJr.のころ。レッスンを終えて、俺とヨコとヒナ、それからAでメシ行くんが定番になりつつあった。

荷物片付けてスタジオを出ると、禁止されてるにも関わらず出待ちするファンの姿。

…悪い気はせんけどな。一応アイドル目指してる身やし。

それを見たAは、

「いつものとこやろ？現地集合な！」

って。

オンナや言うだけで厳しい目で見られて、ありもせんことを噂されて。それが過熱していく一方なんは目に見えてたし、本人にもダイレクトに伝わってた。

…ちょっと前までは一緒に行って、メシ食って、未来の話なんかして。家まで送ってたんになあ。今じゃ別行動や。

「かんぱーい」

「お前それ酒ちゃうがな」

「レッスン終わりのサイダーは格別やなあ。お兄ちゃん、唐揚げ食べたい」

「自分で取れや。…ん、皿貸せ」

柔らかい表情を見せてくれるようなったんは、最近で。ヒナやヨコが気にかけてても、他のJr.がおる前ではこんな風に笑ったりせんかった。

「来週のオフ何するん？」

「友だちと遊ぶねん。詳細は未定やけど」

「友だちおんねんなあ、そんなんやのに」

「すばるくん？」

週末やからか、賑わう店内。Aが突然「帰るわ」って。言い出した。

「なんで？」

「…ファンの子にバレてる。さっきからみんなのことめちゃくちゃ見てる」

「え」

「もう眠たなってきたし、また明日ね。ありがとう」

サッとお金置いて帰るから、慌てて追いかけて。今思えばこの頃から、こいつに関してのカンは鋭かったんかもしらん。

店出たら、シンとした街に響く声。

「友だちや思ったことないわ！利用してるん気づかへんの？！」

…知らん、オンナの声やった。
そいつの視線の先にはA。

「居場所間違えてるで。もう関わらんといて、友だちや思われたら私まで叩かれる」

「ふざけんな」

咄嗟に腕握って、背中に隠してた。人見知りやのに。

「こいつの居場所はここや。居場所変えるんはお前やで、一切俺らに関わんな」

静けさが戻る街。「友だちおらへんわ」って強がって笑うから、「俺らでじゅうぶんやろ、贅沢言うな」って言うたった。