名も無き陰陽師【過去編】 ページ33
「……何故そう思う?」
「え!?だ、だって。ここの所、食も細くなったし…。顔色もあまり良くない」
「……」
「前は休まず大学寮に通っていたのに、ここの所ずっと休み続きじゃないか。……晴明様も心配しているよ?一度医師殿に診てもらった方が」
「そんなに騒ぐことでもない。俺は至って健康だ。案ずるな。」
道磨はため息混じりでそう告げて持っていた書簡を机の上に置くと、そこで初めて黎磨に視線を合わせる。
「…なら、良いけど。……それじゃあ私は行くよ。良ければ夕餉だけでも私と共に」
「要らん。今は食いたくない」
「そ、そうか。……じゃあ」
ピシャリと言い放たれ、黎磨は肩を竦めたまま部屋を去っていった。
トッ、トッと部屋から足音が遠ざかり、それが聞こえなくなった頃。
部屋に残された道磨の口角が釣り上がる。
「……不味い。不味いんだよ……人の食い物は。不味くて不味くて食えたもんじゃない」
ククッと喉で笑いながら呟かれた道磨の言葉は低く静かに落ちてゆく。
彼から伸びる彼自身の影。それがゾゾゾと畳をするような音と共に変化し、それは次第に巨大な鬼を象った。
京の空は徐々に青紫色へと変化した。暫くすれば、あっという間にとぷりと日が暮れ訪れるのは宵の闇。
どんよりと空を圧迫するようにかかる雲が、更に闇を増長させ今宵は普段より闇が深い。
宵の儀に初めて携わる黎磨は、そんな闇を諸共せず瞳を輝かせていた。
昼とは違う京の顔。黎磨にはまるで別世界のように映っていたのだ。
「これ。黎磨。あまりはしゃぐでない」
「申し訳ありません晴明様。…宵の京がこんなにも違う世界のようだとは知りませんでした」
「フフッ。黎磨にとっては物珍しい光景のようだな。」
「はい!……あっ!アレはなんだろう!?」
黎磨が見つけたのは、橋の袂に立つ何者か。
子供ほどの身長のそれは、明らかに人の子ではない。小さな角に、慎重に見合わない老人のような顔。口元には牙が露出する。
それはキィキィと獣のようなか細い声を上げていた。
黎磨は見つけるや否やそれに近づこうと一歩を踏み出す。
が、それを制したのは晴明だった。
「ならぬぞ黎磨。」
「え、あ!……す、すみません」
「アレは小鬼だ。容易に近づくような存在ではない。」
晴明はそう言うと、そっとその小鬼に視線を向ける。小鬼は相変わらずキィキィとか細く鳴いていた。
「昼の妖と宵の妖を同じものと思っていてはならぬ」
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愛鬼 - いやー面白いです(≧~≦))ププッ!続き気になる! (2018年1月19日 20時) (レス) id: 9f180f1a5a (このIDを非表示/違反報告)
ぼん(プロフ) - wakaさん» わぁあ!!お久しぶりです(`;ω;´)長らく失踪してましてすみません(><)ずっと待っていただいたと嬉しいお言葉ありがとうございます!これからもよろしくお願いしますm(*_ _)m (2017年5月24日 14時) (レス) id: c56038631b (このIDを非表示/違反報告)
waka(プロフ) - ぼんさん、久しぶり...!!!この小説の、更新ずっと待ってました~…!!これからも更新頑張ってね!!応援してます...!!! (2017年5月23日 17時) (レス) id: 38ddde090e (このIDを非表示/違反報告)
ぼん(プロフ) - ルキアさん» はじめまして!お返事遅れてしまい申し訳ございません(´;ω;`)ブワッ嬉しいお言葉ありがとうございます^^*これからも頑張りますのでよろしくお願いします! (2016年4月30日 1時) (レス) id: 5b2ccc4cc0 (このIDを非表示/違反報告)
ぼん(プロフ) - こたつさん» お久しぶりですー!コメントありがとうございますm(_ _)mそして返信が遅れてしまい申し訳ございません(´;ω;`)ブワッなんだかんだでかなりまったり更新で申し訳ないです(´・ω・`)これからも頑張りますのでよろしくお願いします! (2016年4月30日 1時) (レス) id: 5b2ccc4cc0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぼん | 作成日時:2015年12月2日 1時