名も無き陰陽師【過去編】 ページ27
「……道磨の事と言い、あの童子の事と言い……やる事が山積みのようだな」
晴明の声に、黎磨はハッと我に返った。
この事を晴明に伝えるべきか、否。自分の見間違いかもしれない。
現に兄である道磨は、普段と変わりなく黎磨の目に映っている。
しかし晴明の術を跳ね返す事など、道磨に出来るはずもない。
兄さんは、一体……。
「私はそろそろ行かねばならぬ。黎磨も大学寮に赴かなければならない刻であろう」
「え、あ。」
踵を翻した晴明を呼び止めようとしたが、うまく声にならず。結局そこに残ったのは困惑した黎磨だけだった。
「……」
少年はいつものように空を見上げていた。あれから何度か自決を試みたが、彼は生き続けていた。
舌を噛み切ろうと、隠し持っていた小刀で喉を突こうと…何よりここ数日まともに飲み食いしていないはずなのに、体がやせ細るばかりで一向に死へと向かうことは無い。
「吾は、いつ化物になり果てるのであろうか」
ぽそり、と青々とした空に語りかける。が、無論その返答が返ってくるはずも無い。
「身体を傷つければ痛みが走り、食を断てば飢餓に喘ぐ。人としての反応を示すくせに、人として息絶える事はしない…。ククッ何とも皮肉な身体よ」
喉奥から諦めを孕んだ笑い声をもらしたあとで、少年はすらりと一回りも細くなったその腕を天へ向けて伸ばした。
「閻羅王よ。吾はどうすれば良いのだ?」
「それは自分自身で聞いてみると良いよ」
返ってくるはずの無い返答に、少年の肩がビクリと跳ね上がる。
慌てて振り向いた先に居たのは、申し訳なさそうに眉を下げた黎磨だった。
「へへ。大学寮に行く気分になれなくてね。……晴明様には内緒にしておくれよ?叱られてしまう」
「……」
少年はそんな黎磨をしばらくジト目で見つめた後にふいっと顔を逸らした。
しばらく続く無言。鳥のさえずりと風の音が二人を取り巻いた。
「君に、謝らなければならない」
その無言を破ったのは黎磨だった。
「よく考えたんだ。君は私に言った……偽善者だと。……君の気持ちも考えずに私は綺麗事を言ってしまったのだと深く反省したよ。すまない」
「……」
「確かに、君の最良を決めるのは私でもなく誰でもなく……君自身だ。……でも、一つだけ分かってほしい事がある。僕は君に生きていて欲しい。それが例えどんな形でも。」
「……ふ、戯言を吐かすな犬めが。結局貴様は何も理解しておらぬではないか」
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愛鬼 - いやー面白いです(≧~≦))ププッ!続き気になる! (2018年1月19日 20時) (レス) id: 9f180f1a5a (このIDを非表示/違反報告)
ぼん(プロフ) - wakaさん» わぁあ!!お久しぶりです(`;ω;´)長らく失踪してましてすみません(><)ずっと待っていただいたと嬉しいお言葉ありがとうございます!これからもよろしくお願いしますm(*_ _)m (2017年5月24日 14時) (レス) id: c56038631b (このIDを非表示/違反報告)
waka(プロフ) - ぼんさん、久しぶり...!!!この小説の、更新ずっと待ってました~…!!これからも更新頑張ってね!!応援してます...!!! (2017年5月23日 17時) (レス) id: 38ddde090e (このIDを非表示/違反報告)
ぼん(プロフ) - ルキアさん» はじめまして!お返事遅れてしまい申し訳ございません(´;ω;`)ブワッ嬉しいお言葉ありがとうございます^^*これからも頑張りますのでよろしくお願いします! (2016年4月30日 1時) (レス) id: 5b2ccc4cc0 (このIDを非表示/違反報告)
ぼん(プロフ) - こたつさん» お久しぶりですー!コメントありがとうございますm(_ _)mそして返信が遅れてしまい申し訳ございません(´;ω;`)ブワッなんだかんだでかなりまったり更新で申し訳ないです(´・ω・`)これからも頑張りますのでよろしくお願いします! (2016年4月30日 1時) (レス) id: 5b2ccc4cc0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぼん | 作成日時:2015年12月2日 1時