名も無き陰陽師【過去編】 ページ25
「……すまない。私はそういうつもりで言った訳では無いんだ……君にとっての最良を」
「何が最良かを定めるのは、貴様でもなく、閻羅王でもない。吾自身だ。吾は死を最良の道と思っておる。それ以上は何も無い」
「……君には生きて欲しい。それがどんな形であれ」
「…偽善者め」
「……偽善者、か。……そうだな。私は偽善者かもしれない」
黎磨は自嘲気味に笑った後で立ち上がる。そしてそのまま少年の元を去った。
少年はそんな黎磨の姿をしばらく眺め、空へと視線を向けた。
どれほど経ったであろうか。少年はおもむろに舌を伸ばすと、それを思い切り噛んだ。
舌にくい込んだ歯は、次第にそれを突き破りズンと重い痛みを走らせる。
ぶわりと溢れ出した血液が、口内に鉄の味を広げた後で口のはしから滴った。
「……何故だ」
しかし少年に死は訪れない。
ただただ鮮血が着物を赤く染めるだけで、次第に痛みすらも感じなくなった。
「……最早、人間ですらないのか。哀れな化物め」
少年の瞳から一筋涙がこぼれ落ちる。それは鮮血に落ちて見えなくなった。
黎磨は自室へと戻った。
先程の事を悶々と頭に巡らせながら。
そこではっとする。自室の隅。そこで何者かがブツブツと物を言っているのだ。
まるで会話するように…。その何者かが兄の道磨であることはすぐにわかった。
「兄さん?灯りもつけないで何をしてるんだい?」
少々驚いたものの、黎磨はそう言って灯りをつけてやる。
そこでさらにぎょっとしたのだ。
灯りをつけた瞬間、こちらを振り向いた道磨の顔は恐ろしい程にやつれ…目の下には隈が黒々と眼球を窪ませている。
そのせいか、見開かれたように見える目は血走っていた。
そして何より、半開きになった口に見える犬歯のような牙。
「に、にい、さ」
そう言って近寄ろうとしたその時だった。
黎磨を襲ったのはぐらりと視界のぶれる目眩。
目をつぶり、頭を数回振って。
再び瞳を開き、見た兄の姿はいつもと何ら変わりなかった。
「に、兄さん?」
「……なんだ?その顔は。」
「よ、良かった。具合が悪いのかと」
「何を言っている?おかしなやつめ。退け、俺は忙しいんだ」
道磨はそう言うと、黎磨を押しのけ部屋を出ていった。
先程のアレは一体……。黎磨の心臓がどくんどくんと小さく脈打っていた。
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愛鬼 - いやー面白いです(≧~≦))ププッ!続き気になる! (2018年1月19日 20時) (レス) id: 9f180f1a5a (このIDを非表示/違反報告)
ぼん(プロフ) - wakaさん» わぁあ!!お久しぶりです(`;ω;´)長らく失踪してましてすみません(><)ずっと待っていただいたと嬉しいお言葉ありがとうございます!これからもよろしくお願いしますm(*_ _)m (2017年5月24日 14時) (レス) id: c56038631b (このIDを非表示/違反報告)
waka(プロフ) - ぼんさん、久しぶり...!!!この小説の、更新ずっと待ってました~…!!これからも更新頑張ってね!!応援してます...!!! (2017年5月23日 17時) (レス) id: 38ddde090e (このIDを非表示/違反報告)
ぼん(プロフ) - ルキアさん» はじめまして!お返事遅れてしまい申し訳ございません(´;ω;`)ブワッ嬉しいお言葉ありがとうございます^^*これからも頑張りますのでよろしくお願いします! (2016年4月30日 1時) (レス) id: 5b2ccc4cc0 (このIDを非表示/違反報告)
ぼん(プロフ) - こたつさん» お久しぶりですー!コメントありがとうございますm(_ _)mそして返信が遅れてしまい申し訳ございません(´;ω;`)ブワッなんだかんだでかなりまったり更新で申し訳ないです(´・ω・`)これからも頑張りますのでよろしくお願いします! (2016年4月30日 1時) (レス) id: 5b2ccc4cc0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぼん | 作成日時:2015年12月2日 1時