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ジェシーくんは、口を開こうとして、やめて、を繰り返した。
なんて言えばいいかわからないのに、それでも言葉を選ぼうとしている。
どこまでも、優しい人。
「私ももう少ししたら帰るよ」
「え、」
「付き合わせちゃってごめんね。じゃあ」
これ以上気まずさが増すのも憚られて、私は無理やり踵を返そうとした。
「ちょ、っと待ってよ」
「……」
「じゃあせめて、一緒にいるから」
「え？」
「帰れるようになるまで、ね？」
「……ねえ、なんで？そこまでしてくれるの、なんで、」
「だって友達だから」
それでいいでしょ、と、今度は彼がきっぱりと言い切った。
本当にそれだけとは思えないのに、もう、何かを返そうとは思えない気持ちにさせられる。
「ウチでよければおいでよ」
踏み込んでこないで、どころの話じゃないのだ。
彼の懐に、また手を引かれる。
：
失礼な時間の訪問を、ジェシーくんのご両親は笑って受け入れてくれた。
彼の部屋で、お母さんが淹れてくださったココアをすすりながら、どうしたものかと頭を巡らせる。
「Aちゃん」
「うん」
「なんもしないから安心して」
「ふ、なにそれ」
わざわざ開けっ放しにした部屋のドアを指差して、気使わしげにいう彼にちょっと和んだ。
「……、ご家族、仲良さそうだね」
「ん、そうだね。俺はすげえ家族好きだよ」
「そっか。いいね」
「……Aちゃん家は、そうじゃないんだ？」
「そう、だね。歪んでるってほどじゃないけど、居心地は悪いよ」
：
仲の悪い両親の話が、口からこぼれ出る。
酒癖の悪い父と、真面目一辺倒で融通の聞かない母は、小さな亀裂が積み重なってもう修復不可能な寂れた間柄だ。
物心ついたときからそうだった。
飛び交う怒鳴り声と、机を叩きつける音は、日常。
もうどちらが悪いとかそういう次元での言い争いではないから、仲良くしようよなんてのんきな提案は到底出来ない。
二人共、自分のことでいっぱいいっぱいだ。
これ以上ないほど薄れた子供への関心を、今更取り戻してほしいなんて思わない。
けれど、いつだって蚊帳の外の”手のかからないけど可愛げもない娘”の私も、居心地は悪い。
今日の朝２人が交わしていたちっぽけな諍いが、帰ってくるなり引きずられるのはもう経験上間違いないことだったから。
だから今日は、今日も、散歩の日。
流れのままに話し終えてから、ずっと誰かに話したかったんだろうな、とぼんやりと思った。
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作者名：生駒 | 作成日時：2021年12月18日 23時
