僕らに名前をつけるなら・１【原石・赤】 (ページ6)

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樹先輩って呼んでよ。
そのほうがカワイー。

歯の浮くような台詞も、しかしなんだか様になってしまう先輩はなんでもないようにそう言ってきた。

田中先輩、と言う度にニヤッと笑って訂正させてくるから、最近ようやく、無理やり慣れてきたところなのだ。

「俺は未だにルイスくんなのにぃ……」

「ええ、ルイスくんまでそういうこと言うの……」

「だって！俺が和田さん見つけたのに！」

「いやそっちこそ和田さん呼びじゃん」

「あっ」

そもそものところをツッコんだら、今更気がついたというような風に、あっけにとられた顔をした。

「じゃあさ、俺もAちゃんって呼ぶから、ジェシーって呼んでよ」

「……ルイスくん、そういうのこだわるんだ。呼び名なんてなんでもいいと思うけど」

「いいから！ねえ、距離感じるようになってきた！今すっげえ嫌なの！」

「えええ、わかったけど……」

おねだり成功した子供みたいにジェシーくんは笑って、じっとこちらを見つめ返してくる。
流石に、この無言の間が何を欲しがっているのか察せるくらいには、彼とのコミュニケーションに私も慣れていた。

「……ジェシー、くん」

「んふ、なあにAちゃん」

「……古典、こんなとこでつまずいてたらヤバイよ」

「なあんでそんなこと言うの！」

大口開けて笑う彼につられて、私もちょっと笑えた。
こんな風にズケズケとからかえるくらいには、私と彼は確かに”仲良し”だった。

こうやって誰かと軽口を叩き合って笑うのは、似合わないことをしているけれど、悪くない。