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「おいジェシー焦りすぎ。……ごめんね？ちょい勘違いさせるような言い方したかも」
田中先輩がフォローを入れつつ、少し眉を下げてこっちを見てきた。
「まあでも、ジェシーの言ってることは大体そうだよ。ていうか俺らそうやって集まってきてんの。連れてきたいやつ連れてきて、残ってったやつらでつるんでる、みたいな」
「はあ、なるほど」
「だからAちゃんも気楽にね。ルールがないのがルールみたいなもんだから、ここ」
なんならずっと本読んででもいいよ、と私の片手に収まる文庫本を指差しながら、先輩はくしゃりと笑う。
「仲良くしよーね」
ルイスくんと同じ、なんだかうなずきたくなってしまう魔法を、この人も使えるみたいだった。
：
あの日から数週間、私はお昼を屋上で食べるようになった。
最初のほうは４時限目の終わりを告げるチャイムがなる度に、行くでしょ？とルイスくんが声をかけてきたけれど、今では視線をさらっと交わらせる程度の合図で事足りるようになった。
悪目立ちしたくなかったのもある。
ルイスくんみたいな皆の人気者が、こんな目立たないクラスの女子に話しかけているのは多分異様な光景だろうから。
そういう風に伝えたことはないし、実際、自発的に私が屋上に向かうようになったのを彼は喜んでくれていると思う。
「あ、樹いない」
「本当だ」
屋上を見渡しても、今日はあの鮮やかなピンク色は見当たらなかった。
後から来るのかな、とさほど気にすることもなく私たちは定位置のベンチに向かう。
「ねえ、さっきの古文俺全然わかんなかった」
「ああ、そう？源氏物語って中学でもやるし、そんなに難しくないと思うけど」
「俺は中学のときからわかってないのー！」
「うん、ぽい」
「あ、ひでー！あはははは！」
もはや英語でAHAHAHAだよねコイツ、と先輩が言ってたな、と数日前の会話を思い出したところで、ついでに思い至った。
「あ、わかった。樹先輩体育だったんだよ。ほら今日水曜日だから」
「えっ」
「……何？」
戸惑ったような声をあげられて、首をかしげる。
あれ、違ったっけか。
「樹のこと、名前で呼んでるとか俺知らないんだけどー……」
「へっ？」
何かと思えば、思い切り拗ねた顔でそんなことを言われて、まぬけな声を出してしまった。
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作者名：生駒 | 作成日時：2021年12月18日 23時
