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腕を引かれるままに、屋上へ進む階段をのぼる。
私を引っ張る力は思いの外優しくて、きっと振りほどくのは簡単なんだろう。
だけど今更そんな気も起きない。
「さっき言った俺の友達ね、タナカジュリっていうの」
「ジュリ、さん？」
「そー、和田さんのこと話してあるから大丈夫だよ」
「へ、いや何で？」
「んー俺ね、結構前から和田さんのこと気になっててさ、連れてきていい？ってジュリに言ってたんだよね」
「……結構前から、私のこと知ってたの」
ルイスくんが言うことが突拍子もないのにだんだん慣れてきたけれど、変に思って顔を上げたら、彼もこちらを見ていた。
「知ってたよ、ずっと前から知ってて、そんで」
寂しそうだなって、思ってた。
口をもごつかせて発した最後の言葉は、聞き間違いだろうか。
聞き返そうとした瞬間ルイスくんは足を止めて、それに私もつられる。
屋上の錆びついた扉が目の前に迫っていたことに、今気がついた。
「大丈夫、ジュリ、いいやつだから」
さっきの話を引き戻すようにそう言って、彼は扉に手をかけた。
：
ひゅ、と風の音に導かれるようにして、屋上に足を踏み入れる。
この校舎のテッペンには、初めて来た。
「ジュリー！連れてきたあー！！」
私の腕を離したルイスくんは、そのままぶんぶんと長い腕をふり大きな声をあげた。
その方向のいる、フェンスに寄りかかってあぐらをかいている人を目にして、少し意外に思う。
ジュリさん。
てっきり女の人だと思っていた。
うるせー、と笑いながら手を振り返しているその人は男性で、遠目にでもわかるネクタイは、なるほど３年生を表す、私たちとは違う色をしていた。
ていうか、ネクタイよりも髪の色が、ピンク。
行こ、とルイスくんが歩を進めるのを、後からついていく。
ジュリさんの目の前にきたところで、彼は立ち上がった。
ルイスくんほどじゃないけれど彼も背丈は高く、その髪色やフープピアスが体現しているチャラさも相まって、少し物怖じしてしまう。
「はじめまして〜、俺、３年生の田中樹。樹木の樹、でジュリね。よろしく」
ひらりと手を軽く振りながら名乗った彼は、甘ったるいバニラの匂いがした。
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作者名：生駒 | 作成日時：2021年12月18日 23時
