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あ、樹先輩。
何気なく目線を移した窓の外で、遠目からでもわかりやすい桃色の髪が揺れている。
サッカーボールを追って校庭を走り回る先輩たちは寒空の下半袖で、そりゃ運動してるからだろうと頭で分かっているとはいえ、なんだか身震いしたくなった。
別段ずっと眺めているわけでもなく、不便がない程度に板書をノートに写す。
再び校庭に目を向けたのは、ゲーム終了を示すであろうホイッスルの小さな音が聞こえてきたから。
すぐに見つけられた樹先輩は、色の違うゼッケンを来た生徒と談笑をしていた。
楽しげに横で笑う人は見覚えのある顔と黒髪で、名前を思い出す。
松村北斗先輩。
なんだか気まずい初対面だったけれど、いずれお昼休みにまた顔を合わせることが来るのだろうか。
来るんだろうな。
ていうかもともと彼ら三人、だけかはわからないけれど、その中に私が入っていったのだから。
受験勉強に専念していて屋上に来ていなかったと言っていたっけ。
一応進学校でもあるこの学校の三年生としては、まあ普通の振る舞いなのだろう。
そういえば樹先輩は同じく三年生だけれど、進路のことを口にしたことをなかった。
なにか考えがあるのだろうか。
卒業後のその先を、なんだか身軽で器用そうに見える先輩も、きちんと考えていたりするのだろうか。
二年後、数字の上では私も彼らと同じ立場になるというのに。
想像がつかない。
まだ一年生だからと思うことも出来るんだろう、焦りを感じるわけでもない。
だけどなんだか、私はこのまま時間の流れに身を任せて、自分の中に何も見いだせないまま年齢だけオトナに近づくんじゃないかと、そう思う。
やりたいこと、やらなくちゃいけないこと、できること。
擦り合わせる材料がそもそも私にはない。
「きりーつ」
号令と、ガタガタと周りが立ち上がる音に意識が引っ張られ、私もそれに合わせる。
どうやら思った以上に集中力を欠いていたみたいで、板書とそれまで書いたノートを見比べたら、若干繋がらない。
ジェシーくん、ちゃんと書いてたかな。
いまいち期待しきれない感がありつつも、唯一こういう時に頼れる彼を見やると、くあ、と大きくあくびをしながら礼をしていた。
うーん、やっぱり。
その緩んだ顔が少し笑えた。
：
「ジェシーくん、一応聞くんだけど、四時間目のノートってもれなく取ってた？」
「あは！一応って！めっちゃ寝てた」
「だよね、ありがとう」
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作者名：生駒 | 作成日時：2021年12月18日 23時
