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「屋上、来ない？」
何もかも突拍子もないこの言葉が、私と彼の最初だった。
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昼休みの教室の喧騒は、好きではないけれどもう慣れた。
時々響く大声に、文章を追う目が思わず止まることもない。
高校１年生の秋、友達はいない。
作らなかったのだ、というのは別に苦し紛れから出る言い訳ではない。
暇さえあれば本を開いているクラスメートに対する興味というのは、直ぐに薄れていくものだし、意図してやったことだから。
今日も、片手の菓子パンを頬張りながら、読みかけの小説に没頭する。
こうした昼休みの過ごし方は、卒業まで変わらないのだろうと疑わなかった。
「ねえ」
当然、この誰のものとも知れない声が自分に向けられているなんて、全く気が付かなかった。
「……和田さん」
トントン、と机をつつく指と音、それに名字を呼ばれたことで、初めて私は声のする方に顔を上げた。
机の側に立つその人の背は思いの外大きくて、見下ろす顔は影になって見えにくかったけれど、それでも彼の名前は直ぐに思い浮かんだ。
ルイス・ジェシー、くん。
この国では馴染みのない名前、高い背丈と華やかと言えるだろうルックス、いつだって人の輪の中心で大声をあげて笑っている人気者、あと同じクラス。
私が彼を知っている理由はいくらでもあるけれど、その逆は到底思いつかない。
確か彼とは言葉を交わしたことなんてないのだ。
「……え、？」
「あ、見てくれた」
戸惑う私をよそに、ルイスくんは嬉しそうに笑った。
「な、んですか」
「んは、なぁんで敬語なの」
だって、きっと私と貴方は喋ったことなんてないでしょう。
クラスどころか学年の有名人が、こんな日陰者に何の用だというのだろう。
「あのね、和田さんいつもここで一人で飯食ってるでしょ」
「え、はい、まあ」
「俺はね、屋上で食ってるの。あ、友達とね？３年生なんだけど」
「はい……？」
「和田さんも、屋上、来ない？」
ハジメマシテであるはずの彼は、何故か私にそう問うた。
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作者名：生駒 | 作成日時：2021年12月18日 23時
