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「なぜなら、家にまだ幼い弟が一人でいるからです。私たちは昨年末両親を事故で亡くし、お互いだけが家族になりました。親戚は遠く頼れません。彼は中学生でまだ保護者と過ごす時間を必要としています。私は彼と朝と晩、食卓を囲む時間を飲み会や残業で消費するようなことはできません。
その代わり、定時までの時間に人の何倍も働きます。どの部署でも構いません。仕事内容も選びません。1日中走り回ることもできます。保険金や賠償金があるので当面の生活費には不自由しませんが、彼の将来のために取っておきたいので、できるだけ生活費を稼ぎたいと思っています。なので絶対にやめません。何が起きてもやめません。
必ず出世もします。会社にとって役に立つ人間になります。
彼を健やかに育てるためならあらゆる努力を惜しみません。
私が受けている会社のうち、御社が第一希望なのは、給与面で最も条件がいいからと、地方への転勤がないと聞いたからです。
私の最優先事項は、弟です。
彼のために死ぬ気で働きます。
なので、
よろしくお願いいたします」
一息で言い切って彼女は深く頭を下げた。
最後の声が震えていた気がした。
痛々しいほど正直であけすけなそれは、まるで、誓いだ。
頭を下げたまま動かない彼女を見つめたまま誰も何も言えずにいたら、井ノ原----三宅の先輩であり営業部の代表として来てる人間----が声をあげた。
「君が」
それはとても優しい声だった。
「君が彼のためだけじゃなくて、君自身のためにも働きたくなるような、そういう環境を作れるよう、努力します」
彼女がそっと頭を上げる。
「誠実な答えをありがとう。君と働ける日を期待しています」
無表情だった彼女がふわりと微笑んだ。
なぜか三宅が泣きそうだった。
次の春に彼女を見つけた時、声をかけたのは三宅だった。
井ノ原の陰謀(と三宅は呼んでいる)により営業に配属された彼女は、公約通り、死ぬ気で働き誰よりも早く帰っているようだった。
いっそ一番風当たりの強いところで働けば、みんな認めざるを得ないから、とは井ノ原の言葉だった。
弟、の話は、彼女が周囲にしてないようなので知らないふりをした。あの日の彼女には面接にいた三宅はうつってなかったらしい。
あの弟はきっと幸せに守られているのだろうと、彼女の奮闘ぶりを見て思っていた。
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萩花(プロフ) - 凄く面白くて一気読みしてしまいました…！2人の愛情深さに感動してしまいます。これからも楽しみにしております (2022年5月7日 6時) (
レス) @page21 id: 24d453562d (このIDを非表示/違反報告)
Nano.(プロフ) - ずーっと楽しみに待っております！！ (2020年7月11日 1時) (レス) id: 03ff967dd1 (このIDを非表示/違反報告)
はなうたこ(プロフ) - こぐまさん» 感想ありがとうございます！励みになります。近々次もアップします〜！ (2020年5月6日 15時) (レス) id: 186150732f (このIDを非表示/違反報告)
はなうたこ(プロフ) - ななみさん» いつもありがとうございます！感想嬉しいです。優しい世界を描きたくて書いてるので優しいと思ってもらえてよかったです（ ; ; ） (2020年5月6日 15時) (レス) id: 186150732f (このIDを非表示/違反報告)
こぐま(プロフ) - 感動です…涙、涙ですpq井ノ原さんの言葉が響きました。続きとっても楽しみにしています！更新頑張って下さい^^ (2020年5月6日 12時) (レス) id: 43fe0080df (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：はなこ | 作成日時：2020年4月28日 21時
