あなたと 【プロ野球短編集】

石川慎吾『even if』(平井堅) ページ9

「結婚するの」


キャンドルの光が揺れる店のカウンターで、Aは嬉しそうに誠司さんから貰った指輪を眺めている。


Aの心に俺の雫が落ちないなんて分かってる。

でも、このバーボンとカシスソーダが無くなるまでは、Aは俺のだよな



鍵をかけて、時間を止めて、君がここから離れないように。


「Aとずっと飲んどきたい」

「なに?慎吾くん酔ってるの？」


そういって微笑むA。

いや、本心なんだけど。


「Aももうちょっと飲んだら？」


酔って、肩にもたれかかってくれえばええのに。

そんなこと言えるわけないけど。


言葉を飲み込んで、俺はまた君から目をそらした。



「……」

「……」


沈黙が辛い

まあ、俺のせいなんやけど。

流石に耐えきれなくなったのか、Aが口を開いた。


「……そう、誠司さんがね、慎吾くんのフォーム褒めてたよ。」


また誠司さんの話か

君の声はずっと聞いていたいはずなのに、俺はそれをさえぎるようにバーボンを口に注いだ。


君の心は誠司さんで満たされてる。


このバーボンとカシスソーダを飲み干したら、また誠司さんの胸に戻るの?



Aは酔って、終電を逃して、そのまま誠司さんを忘れてしまえばいい。








でも、俺は時間を気にしながら最後のカシスソーダを飲み干した。







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