あなたと 【プロ野球短編集】

柴田竜拓『Family song』(星野源) ページ3

「その曲好きなの？」


そういって声をかけてきたのは、俺が密かに思いを寄せていたAさんだった。


「あ、うん。見てるドラマの主題歌で、ちゃんと聴いてみたらはまっちゃって」

「そうなんだ！私もその曲好きなんだ。いい曲だよね」


Aさんとはあまり話す機会がなかったから、これは良いチャンスだと思った。


「サビが自分に重なってさ……。
あの、『悲しみは次のあなたへの橋になりますように』ってとこ。」


そういってAさんは窓の外に目を移した。


「俺も、『幸せが１日でも多く側にありますように』っていうところが自分に重なる」


Aさんは、窓の外から俺の目に視線を移した。

見つめられて、自分の頬が赤らんだことに気がついた。


「………親にさ、この前恋愛相談したんだよね」


突然なことで少し焦った。


「でもうちの親すっごい過保護で、

『野球選手を好きになった？A、未来のことをもっと考えなさい。貴方の相手はちゃんと私たちが決めてあげるから焦らないで』

って言われて。」


野球選手？

いったい誰なんだ？


「落ち込んでた時に、この曲に出会ったんだ。『悲しみは次のあなたへの橋になりますように』ってところに強く引かれて」

「……そのさ、『あなた』って誰のこと？」


少し困った顔をして、こう返された。


「……いっていいの？」

「もちろん」


緊張と恐れで、胸がどくどくと唸った。




「……柴田くん」





時が止まったかと思った。

夢じゃないと思いたい。


何も言わず、俺はそっとAさんを抱き締めた。

温かくて、優しくて、安心した。


「それは、俺も同じ気持ちだっていう意思表示かな？」


なにも答えられなくて、首だけ縦に振る。

すると、俺の腰に腕がまわされた気がした。








幸せが、１日でも多くAさんの側にありますように。







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