一番大切なもの ページ20
その言葉に、私の動きは一瞬だけ止まった。
今まで大切なものを持っている女性は何度も見てきたが、既に失っている人は初めてだ。
「なら、今貴方にとって一番大切なものは…なんですか？」
しかし、咄嗟に口をついて出た言葉に私は自身でも驚いた。このままでは怪しまれてしまうかもしれない。踏み込みすぎてしまった。
――それでも
「一番大切なものなんて、私にはもう無いよ」
何も持たない冷たく凍てついたその瞳は、何処か見覚えがあった。誰かに、重なった。
だから、後悔した頃にはもう手遅れになっていた。
「なら、僕がラビリンスさんの一番大切なものになるよ」
今まで一度も死ぬ前の人間の一番になろうだなんて考えたこともなかった私が、そう言ったのだ
死してそこ暖かい人間。その一番に私はなりたかった。なりたかったはずなのに、
私はこの女性に対し、生きている間の一番になると言ってしまった。
「ははっ！うん、ありがと。嬉しいよ」
こっちは言った直後から後悔しているというのに、目の前の彼女は嬉しそうな笑顔を見せていた。
いつか殺してしまう人間相手に私は何を期待しているんだ。自分でもよく分からない。
だけど、その笑顔も数日で見れなくなるのは少し嫌だった。
そんな言い訳がましい言葉を脳裏に浮かべ、私とラビリンス＝アイビーの生活は始まったのだ。
「ラビリンスさん」
「ラビー！」
「ラビリンスさん」
「呼びにくくないの？」
「これでいいですよ」
ある昼下がり、私とラビリンスさんは呼び方について話していた。
一番になるとは言ったもののそれは咄嗟に言っただけで、実際死んでいない彼女の一番になることにはさほどの興味もないのだ。
お世話になっている身なのだから敬語を使うことは当然。呼び方だってそのままの方がいい。
「ならいいけど。そっちの方が仲良し感あっていいのに」
彼女と過ごす日々は今までの生活とは違い安定して何処か落ち着かないものだった。これが普通の家なのだろうか。
ここは平和な街と言えど、ラビリンスさんの警戒心のなさは正直異常だ。私はまだ子供だから分かるものの、鍵は掛けないし窓も開けっ放し、今まで普通の女性がそんな風に生きてきたと思うだけでゾッとする。
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僕です。(プロフ) - はにゃ？さん» ありがとうございます！そう言って貰えて嬉しいです😊応援に応えられるよう更新頑張りますね！ (2023年4月15日 15時) (
レス) id: 44f4c2417a (このIDを非表示/違反報告)
はにゃ？ - とても読みやすいです。これからも応援してます。 (2023年4月15日 2時) (レス) id: 1a9c7abd60 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：僕です。 | 作成日時：2023年4月11日 17時
