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なぜこんな所に居るのかまるで思い出せなかった。海面へ差し込む眩い光にうっかり目を眩ませて…そこで記憶は途切れていた。その後の事は一切記憶に残っていないが、ここが海ではないということだけは安易に予想できる。
薄暗く狭苦しいので、最初は洞窟かと思ったが、すぐに違うと分かった。
ここら一帯見た事もないくらい、果てしなく、無機質なのだ。どこもかしこも一寸の乱れもなく、堅苦しい形たちがきちんと肩を並べてできたような空間。そして不規則性も遊び心も、目に映る新鮮さもまるで感じられない。「無」を可視化したような場所だった。刺激がなくて只々つまらない。
それにしても、随分と長い眠りについていたような気がする。体を伝う違和感は重くて痛かった。
(………………え?)
やがて、体の特に違和感を感じる下半身になんとなく視線を落とすなり、飛び込んできたその光景に声もなく面食らった。
先刻まで青い鱗に包まれていたはずだった私の胴体は、付け根から裂けていた。……というのも語弊があるが、正確には一本だったモノが2本になっているということが言いたい。しかも、その先端はこれまた5本に裂けている。
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「ええやろそれ。気に入った?ほんま大変やったで!切っても切ってもすーぐ再生しよったし」
「………?」
今の今まで周りが暗くて気が付かなかったが、目の前に人間が居た。2本足で立つその姿は、まさしくいつか絵で見た人間そのものだった。本物は初めて見るので、きっと私は目を鱓の様に見開いていただろう。
僅かな光に照らされた髪の毛はまるで、陽の光を浴びた海水のようにキラキラと反射していて、宝箱に入れておきたいほど綺麗だと思った。
「せやけど、あの状態から自分も良ぉ頑張ったなぁ……涙出てくるわ。どや?人間になった気分は。あんたが起きるの楽しみに待っとったんやで。」
「……………」
彼の言葉は私に通じなかったが、この足は彼の仕業なのではないかと感じた。足を不思議そうに見つめる私に対し、彼は口角をくいっと上げて満足そうに笑っていたから。その笑みは、巧みな悪戯を施し達成感に満ちたような顔つきだ。
「今、もう1人お世話係呼んでくるから待っとってな。」
そうこれはきっと泡のように儚くて、命よりも尊い。私の愛おしい
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兎海(プロフ) - しらたまさん» わあ、嬉しいです…!ありがとうございます! (2020年10月16日 0時) (レス) id: 7a66186871 (このIDを非表示/違反報告)
しらたま - え、すごい好きですこの作品!!神ですか?神なんすか!? (2020年10月15日 21時) (レス) id: 11f81e1c6c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:兎海 | 作成日時:2020年9月23日 20時