毒された体 ページ41
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私が侑様にこくりと頷くと、その瞬間に私は彼の妖力で治の元へ辿り着いていた。
いつの間にか、公園のベンチに腰掛けた私の腿には、その上にぐったりと頭を乗せて、虚な目をした治が居た。私と目が合うと、彼はゆっくりとその口を開いた。
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「来てくれたんか……」
「……まだ苦しい?」
「……今はもう楽なってきたわ。多分、もう駄目なんとちゃう?全然力出ぇへんし」
やけにあっさりと、そんな事を言う治に対して腹が立った。私を置いて行くのか、などとほざいてやろうとしたが、やっぱりそんなかっこ悪い真似はしたくないと、喉まで出かけたそれをごくりと飲み込んだ。
「……治、私気が変わった。」
「……おん?」
「今は、家族の為にもあなたを許してはだめなんだって思ってる。だからせめて、あなたの最後は私が看取りたくて。」
「………そらぁ、光栄や」
私の手を握ったまま、そんな風に言う治はやや挑発的で、だがそれは、いつも通りの見慣れた穏やかな笑顔だった。
「……俺の体は、知らん間にお前に蠧毒されとったんやな」
「まあ……そういうことに、なるね」
侑様が最後まで治の存在に気づけなかったということは、彼も母と同じ妖力を扱えたのだろう。
そして私自信も、母を経由して同じように、彼の首を締めていたのだろう。
…
「治……ごめ」
「なあ」
「え?」
「………お前の事が好きや。」
「……………」
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・
謝罪の言葉を遮られて、まるで最後が近いことを示すかのようなその治らしい愛の告白の仕方に、私は鈍器で頭を殴られたように一瞬何も考えられなくなった。
早く何か言わねばと思って開いた口から、声はしばらくの間、喉笛あたりで引っかかって出てこなかった。
…
そんなの知ってるよ。
私もだよ。
なんで今言うの。
もっと早く言ってくれれば良かったのに。
何一つとして出てこない言の葉たちは、いつしか大粒の涙に姿を変えて、治の顔へ一直線にこぼれ落ちた。
「……泣かせたかったんとちゃう」
私の心を読み取るように治はそう言って、私の涙を拭った。 いつものように、フッフと余裕のある微笑みで
……
「………治……」
「……ああ、あかん」
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ぼやけた視界を拭われた後、飛び込んできたのは、私と同じように涙を流す治の姿だった。
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兎海(プロフ) - kamui926さん» 嬉しいです!ありがとうございます(^^) (2021年1月11日 13時) (レス) id: 7a66186871 (このIDを非表示/違反報告)
kamui926(プロフ) - この小説すごく良かったです。 (2021年1月8日 21時) (レス) id: 1fab38a7fb (このIDを非表示/違反報告)
兎海(プロフ) - もすけさん» 頑張ります!読んでくださりありがとうございます(=^^=) (2020年8月20日 10時) (レス) id: 7a66186871 (このIDを非表示/違反報告)
もすけ - はじめまして!更新されるたび楽しく読ませていただいています!更新これからも頑張ってください(^^) (2020年8月20日 0時) (レス) id: 77771da255 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:兎海 | 作成日時:2020年8月1日 2時