◇ ページ4
ピー、ピー、ピー、
シュコー、シュコー、シュコー
色んな機械の音が、始めは遠くから、段々と音が近くなる。
最初の音は心電図モニターの音、
次の音は、自分の口に嵌められている酸素マスクの音だと、数十秒で理解する。
右手を、弱々しい力で握ると、点滴が数本付いている事が分かった。
薄っすらと目を開ける。
あれ...私、どうしたんだっけ...？
自転車に跳ねられて、それから、
ぼんやりと霧がかかった様な脳で、一生懸命記憶を探る。
自転車に跳ねられた後に、
「大丈夫ですよ」と言って立ち上がる記憶も、
「誰か絆創膏持ってない？足擦りむいた〜w」と言って笑いあった記憶もない。
困惑の中、看護師の声が響いた。
「っ、先生！Aさんが目を覚ましました！」
その声に緊迫感がありすぎて、私もビクッと体を固めてしまう。
天井しか見えなかった私の視界に、お医者さんが顔を出した。
「...Aさん、体調はどうですか。」
『あ、だ、大丈夫...です。』
「そうですか。...」
『私、自転車に跳ねられた後、どうなったんですか？此処は何処ですか？』
思っている事が、全部口に出てしまう。
失礼だって事は分かってるんだけど、どうしても聞きたくて急かしてしまう。
すると、お医者さんは長い睫毛を伏せる。
「此処は、手術が終わった後の安静部屋です。」
「...この手術をする前の貴方は、意識不明の重体で、左腕が潰れていました。自転車に跳ねられた後、脳震盪を起こしていて...。」
「そこまでなら良かったのですが、衝突事故に気が付かなかった車が突っ込んで来て...」
「そしてAさんの左腕が切断されました。」
同情する様に、でも淡々と告げられた真実は、嘘みたいな出来事だった。
一瞬、悪い夢かと思った。
でも、夢だと思っていたモノを現実だと強く自覚させられた。
...左腕が、無かったからだ。
綺麗に染めていたネイルも、
ちょっと巫山戯てマジックで書いた、タトゥーも。
全部、無くなっていた。
『嘘...でしょ...？』
掠れた声が、室内に響く。
唇が小刻みに震え、涙がブワッと溢れる。
衝動的な悲しみが、今はとてもとても辛かった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 15人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
紫騎。(プロフ) - 凪さん» なんだろう、この９文字(と８文字)の破壊力が凄いです...(‘д‘⊂彡☆))Д´)凪さん大好きです♡頑張ります！ (2022年10月29日 17時) (
レス) id: 79bd70445b (このIDを非表示/違反報告)
凪(プロフ) - 好きです、この作品（と書いてる紫騎さん） (2022年10月29日 16時) (レス) @page12 id: f266a8c9d2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：紫騎。 | 作成日時：2022年9月8日 19時
