王様の前で醜態を晒す。 ページ5
私は今、窮地に立たされていた。
飲みの席での王道のゲーム、王道の命令。私が当事者でなければ笑って見ていられたのに、よりにもよって私は当事者で、その上お相手は安元さんで。
私から安元さんへのキスとか言われて、完全に彼らと私との温度差が生まれていた。いや、差はなかったのかもしれない。ただ、混乱していただけで。
「お前らな〜、からかうにしたって限度があるだろ!」
「そうだよ、せめてハグくらいにしないと…」
でも、今を逃したら私からこれ以上のアプローチをすることなんて多分、出来ない。
安元さんのグラスを奪い取り、ぐい、と一気に煽る。こうでもしないと直前で怯んでしまいそうで、お酒の力を借りるしかない自分が情けない。
「あ、Aちゃんそれ俺の酒!」
「…おわ。目ぇ据わっちゃってるよ」
ぷぁ、とグラスから口を離し、ぐらりと視界がブレる。私が普段悪酔しないのは、ザルなのもあるけれど節度のある飲み方をしているからだ。
けれど今は、その限りではない。
グラスをテーブルの上において隣にいる安元さんに目を向ける。彼は驚いたように目を丸くして硬直していた。
安元さん、すき。
「…安元さん…」
「…え、うわっ?!」
胡座を掻いていた安元さんの足を掴んで引っ張り出し、私の手元に引き寄せる。する、と靴下を引っ張って、彼を素足に剥いてしまう。
ちゅ、と彼の足の甲にキスをした。柔く彼の足の甲を唇で食む。今日ばかりはリップも付けてなくて良かった、なんて、
安元さんの肌の感触が生々しい。気持ち良い。
ぽた、
「…ふ、ぁ?」
安元さんの足の上に垂れた、赤い、
「あ。鼻血」
ぶわりと羞恥がぶり返して来て、じわじわ涙が込み上げてくる。
ひっ、と喉から嗚咽が漏れて、
ああ、もう、だめだ。
「うえ、ああ、」
目からも鼻からも液体が溢れて、もう自分ではどうしようもなくて、
「あああああ…」
安元さんにタオルをあてがわれてされるがまま、子供よりも余程みっともなく、情けなく泣き声を上げた。
顔を覆って泣くというか顔面にタオルを押し付けて、安元さんに抱き寄せられてテンパる余裕もないまま。飲みの席を、台無しにした。
349人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「男性声優」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
茨(プロフ) - フェチさん» フェチさんの文章、すごく読み易くてとても好きです...!花江くんのお話も読ませて頂いておりますが、どちらも素敵なお話で読んでいてすごく楽しい気持ちになります!無理せずフェチさんのペースで更新待ってますね、突然のコメント大変失礼致しました! (2020年6月1日 20時) (レス) id: 29dea8a9b5 (このIDを非表示/違反報告)
フェチ(プロフ) - 茨さん» コメントありがとうございます!安元さんお相手の小説少なくて完全に自給自足でしたが気に入ってくださる方いて良かったです…! (2020年6月1日 20時) (レス) id: 0706dee424 (このIDを非表示/違反報告)
茨(プロフ) - ウワ...めちゃすこでした... (2020年6月1日 20時) (レス) id: 29dea8a9b5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ