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壱馬「…優しいから…自分に、優しい言葉をかけてくれたからやない？」
葵唯「…」
さっきほどの、川村くんの言葉に棘はなかった。
言い方は悪いのに…何で、そんなふうに感じるんだろう。
壱馬「…いつもやねん、あいつは。誰にでも優しいねんから、勘違いした女が近寄って来るんやわ」
葵唯「…何それ。私も同じだってこと？」
その時、久しぶりに川村くんを見た気がした。
…とはいっても、睨んだ拍子に見ただけなんだけど。
壱馬「…いや、お前は違う。だってな…例えばあいつが、今回のお前みたいに『優しくすんな』とか責められるやん？」
葵唯「…うん」
壱馬「でもその後、絶対に樹は悩まへん。…きっぱりと、断ち切ってる」
葵唯「…だから、何」
壱馬「…」
私が川村くんの目を見て聞くと、川村くんはふと笑みをこぼした。
壱馬「あいつにとって、お前はただの女やないっちゅうこと。そりゃあ、恋愛感情はないとしても…同じ寮に住む、大事な仲間やってところやな」
そして、私を見て言った。
その時の川村くんの表情は、何かに勝ち誇った時のような…そんな笑みを浮かべていた。
葵唯「…」
壱馬「ハッキリ言うんやけどさ…ただの憧れって、あるやん？」
葵唯「…憧れ？」
壱馬「そ。だから、お前も多分…樹の優しさに憧れただけなんやない？」
葵唯「…」
なんとなく、川村くんの言ってることが理解できる。
私は…彼の優しさに、甘えてただけ…？
壱馬「…樹には、俺から言っといてやる。俺に言われたことで気が動転してただけやってこと。お前はとりあえず、職員室行ってきぃや」
川村くんは立ち上がり、ポンと私の頭に手を置いた。
でも何故か…嫌じゃない。
壱馬「宮本に何か言われる前に、ちゃんと行けや」
それを最後に、川村くんはこの場から離れて行った。
静かな静寂が、私を包む。
葵唯「…」
そう…気が動転してた。
最近嫌なことばっかりで…少しでも、娯楽を求めてた。
だから…
だから、彼の優しさに甘えてたんだ。
スッと、私は立ち上がった。
悔しいけど…
葵唯「…ありがと」
川村くんに…言わなきゃね。
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作者名：桜花 | 作成日時：2021年5月31日 0時
