片隅05 ページ32
「作家……?」
活字に触れる機会がそうそうないせいで、小説はほとんど読まない。
映画化された作品でさえも映画で満足してしまうから、原作ファンとは話も合わないし。
「本を読むのが好きでね、色んな本を読んでいるうちに自分でもお話が書きたいなって。最初は趣味だったんだけど、誰かに読んでほしいって。」
「へぇ。それでその手帳に書いてるんだ?」
「ううん。まだアイデア。恥ずかしいし、在り来たりなお話になるけれど……いつか誰かの目に留まって、その人の時間を私の小説を読む時間に使ってもらえるって憧れだし、夢なの。」
優しく笑った彼女の髪を風が優しく揺らす。
吹けば飛んでしまう綿毛のような繊細さと、移りゆく季節に次々と散る花のような儚さ。
たった少しの時間だけ。
初対面のはずなのに、いつしか自分の事も相手のことも話していて。
「もし書けたら、一番に読んでほしいな。」
「…え、俺!?いいの?」
「もちろんだよ。」
「じゃあ楽しみにしてる!」
初めて出会った桜の木の下。
それが最初の会話。
連絡先を交換した俺達はそれからも時間があれば会っては話をしていた。
彼女の手帳はたくさんの文字で埋められ、着々と物語は進んでいた。
そんなある日、彼女は俺に一冊の本を手渡した。
「何、これ。」
「今年の文学賞に選ばれた作品なの。私はもう読んだんだけど、とっても面白かったから良かったらどうかなって。」
「へぇ…。どんなお話なの?」
「青春モノと見せかけたミステリーかな?面白いことは私が保証するよ。」
「俺、読むの遅いけど大丈夫?」
「大丈夫だよ。時間のある時にゆっくり読んでもらえたら。」
手渡された本の帯には『第62回文学賞受賞作品』と大きく書かれていた。
やっぱりこうして大きく見出しをつければ人は買うものなのだろうか。
文学賞に選ばれた作品は間違いなく面白いから手に取る、というのは何だか違和感を覚える。
「今度、私の家に遊びに来る?気になる小説があるなら貸すよ?」
「いや、それは流石に申し訳ないよ。それにあの丘の上のお屋敷でしょ?」
去年、何もなかった小高い丘の上に大きなお屋敷が建った。
駅からも距離はそんなにない場所とあってか、町の人はみんな注目していた。
聞けば彼女がそこに引っ越してきた一家だと言うのだから驚いた。
正真正銘のお嬢様。
それは彼女の振る舞いからも見て取れた。
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天凪(プロフ) - NMダイキング担さん» お返事が遅れてしまい、申し訳ないです...!更新が遅れていますが、もう少しして夏休みに入り次第、更新ペースを上げる予定ですので、それまでよろしくお願いします! (2018年7月26日 23時) (レス) id: 73cf59f499 (このIDを非表示/違反報告)
NMダイキング担 - 更新ありがとうございます!続きが気になります!!! (2018年7月3日 0時) (レス) id: 238f9174c4 (このIDを非表示/違反報告)
天凪(プロフ) - NMダイキング担さん» コメントいつもありがとうございます!更新と返信が遅れてすみません。これから少しずつ更新していきますので、最後まで応援よろしくお願いします! (2018年7月1日 21時) (レス) id: 73cf59f499 (このIDを非表示/違反報告)
NMダイキング担 - 遅れましたが、新作ありがとうございます!天凪さんの作品とても大好きです。これからも無理せずに更新頑張ってください!! (2018年6月7日 0時) (レス) id: 238f9174c4 (このIDを非表示/違反報告)
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