ひとりでも、信じられるなら ページ16
ガコン、と取り出し口にコーヒーが落ちる。
悠木さんはコーヒーを俺に手渡すと、公園のベンチに腰掛けた。
「座れば？」
「帰らないんですか」
「ただの寄り道だろ。嫌なら帰っていいよ」
自分から誘っておいてと、恨みがましく呟くと
「誘いに乗ったのは君だろ」と彼は缶コーヒーのプルタブを開けた。
夜も更けてきたというのに、カフェインをガツガツ摂取する彼の缶を握る手は、以前よりも一回り二回り細くなったような気がする。
「辞めたんですか」
俺が尋ねると悠木さんは「そうだよ」とこちらを見ずに言った。
「寝れなくなったとか食べれなくなったとか描けなくなったとかそういうよくある理由でね。君はないかもだけど」
やけに棘のある言い方。
穏やかな人柄に似合わないようにも見えるけどこの人は多分、前からこんな人だった。
「いいよ、君はわかんなくて」
「わかろうとも思わないんで」
「そりゃあそうだね」
そう言うと、悠木さんは近くに落ちてた枝を拾ってガリガリと地面を掘り始めた。
「なにしてんですか…」
「ナスカの地上絵もどき」
かりかりと、地面に棒を走らせていた悠木さんは
「だめだ、もっと大きく描こう」と、ベンチから立ち上がり、曲線的なフォルムを描き始めた。
「ポケモン…？地上絵なのに…」
「いいんだよ、ハチドリもピカチュウもきっとそんなに大差ないよ」
「高橋くんも描く？」と彼はどこで見つけたんだか、手頃な枝をもう一本俺に渡した。
俺が悠木さんの隣で枝を走らせると、悠木さんはおもむろに話し始めた。
「君の言った通りね、なんでもよかったみたいだ。
僕を見てもらえるなら、見つけてもらえるなら、僕は予備校から受験なんて無縁な絵画教室に簡単に乗り換えられた。誰かがいなきゃ僕は描けなかった」
彼は缶コーヒーを飲み干すと、枝をその辺に放り投げて「こんなもんかな」と、頷いて踵を返す。
パンパン、と土埃を払いながらベンチに置いた工具箱を手にして出口へと向かおうとする背中に思わず声をかけた。
「…明日になったら」
「ん？」
「明日になったら、踏まれて、この絵も消えますよ」
見てもらえないことは、耐えられないんじゃなかったのか。
そう思いながら悠木さんに声をかけると、彼は少し悩むそぶりを見せたあと「別にいいや」と歩き出した。
「明日一番に来てくれた子が、きっと見てくれるよ」
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鯛士官 - 夢主くんの抱える悩みが痛いほど伝わってきて、読みながら応援していました。夢主くんはこれから立ち直ることができるのかすごく気になりました！更新いつまでもまってます！ (2022年4月10日 1時) (
レス) id: 35edd22ccb (このIDを非表示/違反報告)
田田田(プロフ) - 寿さん» 寿さん、ありがとうございます。夢主と桜庭さんとの関係は私の中でもお気に入りなのでそう言っていただけて嬉しいです。まだまだ続きますのでよければお付き合いください。 (2022年2月3日 3時) (レス) id: 225ebf53bb (このIDを非表示/違反報告)
寿 - 主人公の子が人間味があって凄くいいです‼️前作から一気見しちゃいました。主人公の子が自分を追い詰めて辛くなっていく様子が凄く鮮明に書かれていて引き込まれました‼️桜庭さんとの関係性も最高です!! (2022年2月1日 21時) (レス) @page11 id: 29eaa28498 (このIDを非表示/違反報告)
田田田(プロフ) - おしんこさん» ごめんなさい！完結してなくてこれは私のミスです！なかなか進まないですがよろしければお付き合いください！ (2021年11月18日 22時) (レス) id: caea1a309b (このIDを非表示/違反報告)
おしんこ - 凄く良かったです…ブル−ピリオドの世界観がまんまこの小説に写ったような文章力に圧倒しました！！完結してしまっているのは悲しいですがこの作品に出会えて良かったです！素敵な作品有り難うございます (2021年11月15日 20時) (レス) @page6 id: 7693e4cb68 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：田田田 | 作成日時：2020年11月27日 14時
