歩き出す(終) ページ4
見上げて来るその表情が妙に落ち着かなくてなんとか目を離してこぶが出来る額を個性で冷やしてやる。
冷気を出して俺の手も少なからず体温が下がるはずなのにどうしてか触れてる部分が熱く感じて。
足りないと訴えた香りは同じなのに何故か満たされてるような。
(…なんだろうな、手…離したくねぇ)
離したらまたあの足らないと訴える何かに包まれそうで。
はぁ…と一息ついたAがちらりと俺を見る。
｢休まなくて大丈夫？本当に眠かっただけ…？｣
｢あぁ｣
｢それから…冷やしてくれるのは有難いけど眠いならこう…休み時間に少し目を瞑ってるとか…あ、切島くんならきっと痛くないんじゃない？｣
｢…分かった、また眠くなったらAに頭突きする｣
｢何も分かってない…！！？｣
｢…もしクラスが離れても、Aに頭突きしにいくか｣
最後の一言は音にしようとして自分にだけ聞こえる音量に留めた。
痛がる割に冗談飛ばしてくるからノってみただけなんだがな。
マジでまた頭突きすると答えたと勘違いしてぎょっと目を見開くAに思わず口元が緩んだ。
なんだかんだ文句より心配の言葉を寄越してくるやつ。
万が一にも本当にもう一度同じことをしてもAなら許してくれんじゃねえかってのは勝手な考えかもしれねぇ。
「A、悪かったな」
「轟くん意外と頭が固かったよ」
「頑固だって言ってるように聞こえるなそれ」
「…ささやかな仕返し…？」
「仕返しにもなってねぇ」
移動教室の道中、俺たちの軽口を聞いていた八百万たちが笑ってそれに釣られてAも俺も口角が上がる。
こんな風に言い合えるのはAくらいだ。
(自分が思ってるよりAといる時間を気に入ってんのかも、な)
――無意識から意識するまでの歩き出し―――
終
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作者名：しろ太 | 作成日時：2017年9月8日 16時
