暑くてうるさい夏の日 ページ2
その一件以来、俺は智から距離を置かれているような気がして、接しづらくなった。
智も智で、日に日に一人でいることを好むようになっていた。
けど、なぜだか帰り道は一緒に帰っていた。
そんな関係が続いて、気がつけば俺達は受験生になっていた。
進路希望調査だの、訳の分からないものを渡されて、戸惑いしかなかった。
特に将来やりたいことも見つからないし、智が行く学校に自分もついていこうかというくらいの心構えでいた。
だから、あの言葉を聞いた時は心底驚いたんだ。
「僕、高校には行かないよ。」
蝉の声がやけにうるさい夏休みのことだった。
久しぶりに2人で遊んでいた日の午後
話の成り行きで高校受験の話になり、どこを志望するのか尋ねた答えがそれだった。
ずっと、智と一緒にいた俺にとって、その選択肢は思考の外だった。
「はっ？じゃあ、なに、働くってこと？」
混乱したままに問いかけると、智は困ったように笑ってうなづいた。
「え、なんで？だって、智頭悪くないじゃん！学年びりのやつでさえ、高校行くよ？
智は...なんで行かないの？」
思いつく限りの言葉で、問い詰める。
俺はとにかく、パニックだった。
学力があるのに、進学しない。
そこに、それなりの理由があることを
冷静な俺だったら気がつけただろう。
けど、俺は気がつかなかった。
そして、智はヘラヘラと笑っていた顔を、急にクシャッと崩した。
「...父さん、仕事辞めちゃったんだ。」
「えっ...。」
智の目から、涙がこぼれ落ちた。
溢れて止まらない涙。
それと同様に、智は話すこともやめなかった。
「父さん、仕事辛くてね、辞めちゃったんだ。
きっと、もう働けない...。
今は、母さんがパートで家計支えてるけど、それももう限界。
もうすぐ、貯金も無くなるし、だから、僕が、僕が家族を守らなきゃいけないんだ。
ほんとは、ニノと一緒に、高校行きたかった。
もうすぐ、一緒に帰るのも、なくなっちゃう。
すごく、寂しいし、嫌だ。
だけど、わがまま言ってられない。
僕が、僕が、ちゃんと、しないと。」
震える声で、智は話した。
その話の最中、一切智はこっちを見なかった。
それが、またひどく俺を寂しくさせた。
智のその言葉に、俺は一体なんて返したんだろうか。
覚えていない。
ただひどく暑い日だったことと、蝉の音がいつまでも耳から消えなかったことを覚えている。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 68人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
izumi(プロフ) - 碧さん» コメントありがとうございます！領さんと零治さんは一見性格が真逆に見えますが、根っこの部分は一緒で息ピッタリです。領さんは家柄＆兄ということから、我慢することに慣れているじゃないかと考え書きました。感動していただけるなんて...！感無量です(><) (2016年12月31日 13時) (
レス) id: 1b12000313 (このIDを非表示/違反報告)
izumi(プロフ) - みーこさん» コメントありがとうございます！ニノも従兄弟の2人も智くんを思う気持ちは強いです。しかし、信頼関係を考えるとやはりニノしかいない！と思って私も書いています(*^^*) (2016年12月31日 13時) (レス) id: 1b12000313 (このIDを非表示/違反報告)
碧(プロフ) - 領くんと零治くんすっごくいい兄弟だなと思います( ；∀；)領さんの心情とか読んでいるだけで感動しました(*´ω｀*) (2016年12月31日 12時) (レス) id: 24fc974975 (このIDを非表示/違反報告)
みーこ(プロフ) - この状態なら、やはり和くんが傍に居続けた方が、滅多に会ってない従兄弟と居るよりも良いですね。 (2016年12月17日 13時) (レス) id: 5ae3e13203 (このIDを非表示/違反報告)
izumi(プロフ) - みーこさん» みーこさん、いつもコメントありがとうございます！おばあちゃんは、ニノの良い理解者という立場で書かせていただいています。親子とはまた違う一歩引いた立場だからこそ、ニノの決意に即答できたのだと思います。(^^*) (2016年12月11日 22時) (レス) id: 1b12000313 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：izumi | 作成日時：2016年12月4日 17時
