ブルー・モーメントⅢ (ページ8)

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side You
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「あ,寝てる」

夕飯を作り終えて,大我が横になっているソファを覗き込む。
彼はソファで寝息を立てていた。少しは吐き気止めが効いたのかもしれない。
眠れていることに安心する。

薄くなったけれど,長いまつげ。

「…ほんと,綺麗」

ついそんな言葉が出た。
そんなことを呟いてしまうくらい,大我は綺麗だ。

「……こんなしんどい思いさせてるんだから，ちゃんと治してよね」

大我の身体を駆け巡っているであろう抗がん剤にそう言ってみる。
私はまだ，奇跡が起こることを諦めてはいない。
お腹の子が生まれて，大我と一緒に育てていく未来。
子どもが私たちに笑いかけたり，初めて歩いたり，私たちを呼んだり。
一緒に出かけたり，相談に乗ったり，時折喧嘩したり，笑い合ったり。
そんな日々の積み重ねで，子どもが巣立っていくのを一緒に見守れる未来。

そんな未来が来ることを信じている。

「…A」

大我に名前を呼ばれてハッとする。
大我はそっと目を開いて，ほんの少し微笑んだ。

「あ，ごめん，起こしちゃったかな」
「ううん，大丈夫……結構楽になってきた，」
「ほんと？…なんか食べられそう？スープもあるし，シャーベットとかゼリーとか…ちょっとさっぱりしたのもあるけど」
「うーん，じゃあ，シャーベットもらおうかな」

無理はしないでね，と声をかけて，レモン味のシャーベットとスプーンを渡す。ゆっくり身体を起こす大我を支えた。

「いただきます」
「どうぞ」

ひと匙のシャーベットを口に含むと，大我は「美味しい」と呟いた。何気ないことかもしれないけれど，そう思ってくれたことに安心した。

「A，ありがとね。…迷惑かけてごめん」
「謝らないでよ。私たち家族でしょ。…迷惑なんかじゃないよ」
「…うん。ありがとう」

嬉しいことも楽しいことも，苦しいことも悲しいことも。
どんなことが起こっても，それを受け入れる強さを大我がくれた。

…というより，大我が家族になってくれたから，受け入れることができるようになったんじゃないかな，と思う。