🎨9章 ページ1
side Taiga
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「今日病院行く日でしょ？気をつけて行ってね」
「うん。ありがと」
「無理しないでね，ほんとに」
「それはAもだよ」
退院から4週間が経って，今日は定期通院の日。
抗がん剤も打つから，どのくらい副作用が出るのか不安なところではある。
それでも，少しでも良くなればいいな，と思うばかり。
「行ってきます」
また後で連絡するね，と微笑むA。
彼女の笑顔のあどけなさに，時折高校生の頃の面影がちらつくことがある。
「行ってらっしゃい」
笑って彼女を送り出す。
通院に使うバスが最寄りのバス停に来るまで，あと2時間ほどある。今朝，Aが取り込んでくれた洗濯物を畳みながら，つけっぱなしにしていたテレビを眺めた。
世界はカラフルだな，とニュースを見ながら思う。
嬉しいこと，悲しいこと，腹が立つこと，可笑しなこと，色んな感情が動くような出来事があって。
それに伴って，人が起こすアクションがある。
泣いたり，笑ったり，人に優しくしたり，人を傷つけたり。
いいものばかりじゃないけれど，全て生きてる人間が起こしたことなんだ，とふと俯瞰するような，不思議な気持ちになることがある。
この世界において，同じ人は1人としていなくて。
だからこそ，分かち合えないこともあるんだろう。
大学のときの授業で教授が雑談のように言ったことを思い出した。
分かり合えない人がいたとき，寄り添わなくてもいいから，「そういう見方もあるんだ」ということを知るべきだ，と。
一緒に暮らしていても，それは大切にしなくてはいけないな，と思う。Aのことは何となく分かるし，彼女も俺のことを分かってくれるけれど，それが全てではないし。
よく分からないことも割とあるのかもしれない。
たとえば，彼女がなぜかハムエッグにマヨネーズをかけて食べること，とか。
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作者名：chapi
| 作成日時：2023年9月13日 21時
