🎨4章 ページ38
side Taiga
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「はい，ネームバンド確認しました。10時から手術室に入りますので，弾性ストッキング履いてお待ちくださいね」
朝8時に検温があって(手術だから今日は絶飲食)，手術着に着替えた。それから，血栓防止のための靴下(これが弾性ストッキングというらしい)に履き替えるよう指示があった。
「…なんか緊張するね」
「そうだよね，緊張するよね」
「全身麻酔なんて，昔親知らず抜いたとき以来だよ」
「そっか。初めてではないんだ」
Aは朝から来てくれて。
彼女がそばにいてくれるだけで，心が安らぐ。
スマートフォンを確認したら，うちの両親ももうすぐ来る，ということだった。
「あー，色々パスワードとかまとめとけばよかった」
「なんで？」
「だってほら，もしものことがあったら」
「やめてよ，縁起でもない…」
「いや，そうなんだけどさ。仮にそうなったとき，銀行口座とかさ…」
エンディングノートってこういうときのためにあったんだな，とぼんやり思う。…こんな若いうちから使う可能性は考えなかったけど。
「…そうね」
「まあ，まだ必要ないとは思うんだけど」
「そう信じよう…」
今日が終わったら，何か変わってしまうかもしれない。
そんな未来を想像すると，まだ少しだけ怖いと感じる。
それでも，Aがここにいてくれる限り，心のどこかで大丈夫だと思える。彼女は，俺にとってなくてはならない存在だ。
「…A」
「ん？」
「もしも，…もしもの話だよ？俺が手術でおかしくなって，Aのことを傷つけるようなことがあったら…俺から離れてね」
脳の手術だから，どこかの神経に影響が出てもおかしくない。後遺症で，性格が変わって暴力的になってしまう人もいるとインターネットで調べた。
もしもAを傷つけてしまうようなことがあったら，と思うだけでゾッとした。
「……大我」
「Aのこと，殴ったりするかも，傷つけるかも，って思うだけで，怖くてたまんないんだよ。…俺の手が動かなくなることより，ずっと怖いよ」
Aは優しく俺を抱きしめてくれた。
家の柔軟剤の匂いがふんわり鼻をかすめた。
「うん。大我が傷つかないように，私も自分を守るから」
「…ありがとう」
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作者名：chapi
| 作成日時：2022年9月5日 0時
