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side You
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「荷物持った？忘れ物ない？」
「うん，ばっちり」
「まぁ，忘れ物あっても私が取りに来ればいいだけの話なんだけどさ」
朝食をとって，身だしなみを整えて，病院へ。
後部座席に荷物を積んで，運転席に乗り込んだ。
「じゃあ，行くよ」
「うん。お願いします」
助手席に座る大我。彼があまりにもいつも通りで，脳腫瘍だなんて未だに信じられないけれど。
「A」
「んー？」
「ありがとうね。わざわざ半休取ってまで，付き添ってくれて」
「当たり前でしょう！私のこと，旦那を1人で入院させるような冷たい奥さんだと思ってたの！？」
「まさか！ただ，めちゃくちゃ甘えてるな〜って思って」
「いいの，甘えてよ」
大我は少し恥ずかしそうに，それでいてどこか嬉しそうにくすくすと笑った。
「開頭手術ってことはさ」
「うん」
「髪の毛剃らなきゃダメかな」
「うーん。どうなんだろ，最近は剃らなくてもいい病院も増えてるみたいだけど」
インターネットで調べた結果，だけど。
「でも，悪性だったらそのまま放射線治療と化学療法じゃん」
「そうね」
「どっちにしろ，髪の毛なくなるよね」
「まあ…ね？」
「だったら諦めて潔く剃っちゃった方がいいかな。A，やってくれる？」
「えっ，バリカンで！？できる…かなぁ？」
バリカンなんて持ったことがないのだ。
実家にいたとき，母が父の髪を刈り上げるのに使ってたイメージはあるけど。
「できるできる！デザインカットしてほしいわけじゃないし！」
「えーっ，すごい変になっても私責任取れないよ！？」
「大丈夫だよ，どうせ最終的に抜けるんだし」
「…まぁ，そうだけどさあ……」
今の私たちには緊張感というものが，ない。
手術を控えている病人にはどうしたって見えない大我と，入院先に彼を送っているようには見えない私。
落ち込んでいるよりは，こうして明るく話している方がまだ救われるような気がしている。病は気から，とか，そういうことはどうでもよくて。
ただ，病気から目を逸らしているだけなのかもしれないけれど。
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作者名：chapi
| 作成日時：2022年9月5日 0時
