ブルー・モーメント (ページ19)

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side Taiga
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脳腫瘍。グリオーマ。開頭手術。後遺症。

さっき言われた言葉の断片が，脳裏に浮かんでは消えてを繰り返す。
これを考えている頭の中に腫瘍があると言われても，いまいちピンとこない。

「……手術，受けないと死ぬかもしれないんだよね」

病院からの帰り道。脳内整理をした結果，出てきたのはそんな言葉だった。
Aは運転席に座って，フロントガラスを睨みつけながら淡々と「多分」とだけ返してくれた。きっと彼女も混乱している。

「……手術受けたら，絵本作家の俺が死ぬかもしれない」
「…え？」
「……右手，動かなくなったら，死んだも同然だよ」

ずっと，子どもの頃からこの右手で絵を描いてきた。
もしも，この手が永遠に動かなくなったら。
……生きてる意味なんて，あるのだろうか。

「…お腹すいた？」
「ん？」
「朝から，夕方まで，何も食べてないでしょ？」
「……そういえばそうだね」

朝，眩暈を起こしてから今まで何も食べていなかった。
それを忘れるくらい，色んな事がありすぎたから。

「……コメダ珈琲，寄ってく？」
「嫌だよ」
「シロノワール食べたいって言ってたじゃん」
「こんな気持ちでシロノワール食べたくないもん」
「…それもそっか，ごめん」
「謝らないでよ。大我は何も悪くないんだから」

時折訪れる沈黙が，空気を重たくしていて。
どことなく居心地が悪い。

「…どうするか，考えなくちゃね」
「うん」
「セカンド・オピニオン，受けてみる？隣町の大学病院でも診てもらおうよ」
「そうしようかな」
「明日診てもらえるように，予約しようか」
「…うん」

高校にも連絡しなくちゃな，と思う。
脳腫瘍になったので非常勤講師やめます，だなんて，ものすごい文章だな，と思って可笑しかった。

「コンビニ寄って，夜ご飯買って帰ろう。疲れちゃったから，今日は作る気力ない」

Aの提案に，なんとなく頷いた。
駐車場に車を停めて，2人で中に入った。インスタントの味噌汁と，おにぎりを2つかごに入れる。彼女はサンドウィッチとインスタントスープを選んでいた。