🎨1章 ページ2
side You
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「大我，7時だよ」
そんな出逢いから10年が経って，私は彼の奥さんになった。
あの日がきっかけで付き合い始めて，高校を卒業した後は同じ芸術大学の音楽学部と美術学部にそれぞれ進学した。
大学在学中に絵本のコンクールに入賞した大我は，そのまま絵本作家としてデビューした。
今は絵本作家をしながら，週に2回(火曜日と木曜日)，非常勤講師として私立の高校で美術の授業をしている。
大学で声楽を専攻していた私は，高校の音楽の先生になった。
今は公立高校の合唱部の顧問で，今年は高校1年生の担任をしている。
もちろん楽な仕事ではないけれど，それなりにやりがいを感じている。
「ん，おはよ…」
「おはよう。朝ごはんできたよ」
「ありがと」
まだ眠そうな大我の背中を軽く叩く。
なんだよ，と大我は軽く笑った。
大我が顔を洗って身支度を整えている間に，私は朝ごはんの支度をする。
お茶碗にご飯をよそって，味噌汁を取り分ける。それから卵焼きとタコさんウインナー(これはお弁当の残り)。
「美味しそう」
カッターシャツとスラックスを身につけた大我がダイニングに顔を出す。
夏季に美術の授業がある日は，いつもこの格好だ。
授業中はこの上にエプロンを掛けているらしい。
2人で食卓について，手を合わせる。
「今日，遅くなる？」
「うーん，どうかなぁ？職員会議があるから遅くなるかも」
「そっか。じゃあ，なんか夕飯用意して待ってるよ」
「ありがとう。絵本の方は？締切近いんじゃないの？」
「うん。でも大体描き終わってるから，明日には提出できそう」
「よかった。無理はしないでよ」
「Aこそ」
教師より生徒の方が今は忙しいよ，と私は笑う。
もうすぐ文化祭があるから，生徒たちは普段の勉強や部活動に加えてクラス発表の用意をしている。
私の高校は，1年生がクラスでの出し物，2年生と3年生が出店を出すというルールがあるみたいだ。
「へぇ，Aのクラスは何するの？」
「演劇だって。ロミオとジュリエットって言ってた」
「シェイクスピアか」
「そうそう。演劇部の子たちが中心になってやってるよ」
文化祭って聞くと思い出すね，と大我が呟いた。
「何を？」
「Aが初めて話しかけてくれたときのこと」
「あぁ，看板描いてたときね」
「あのとき作業しててよかったよ。今，こうしてAといられるんだから」
そう言って大我は味噌汁をかき込んだ。
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作者名：chapi
| 作成日時：2022年9月5日 0時
