記憶のオクに…【青】 (ページ10)

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ノックして病室に入ると、家族3人楽しそうに会話をしている姿が目に入る

「あんたがまた入院するなんて思わへんかったわぁ。あれは…5歳の時やったかなぁ？」

「夜中いきなり熱出して、俺がおぶって病院まで走ったなぁ。章大覚えてるか？」

「んー、何となく覚えてる…」

3人が話してるのは、私が知らない章大の話で

その話に入れるほど、私の心はタフじゃなくて

病室の隅で小さくなっていると

「Aちゃん戻ってきてたん？先生何やって？」

「これから…頑張りましょう。っておっしゃってました」

お義母さんに答えながら、ゆっくり章大に近付くと

「山田さんが…僕の事助けてくれたんよなぁ？どうもありがとぉ」

「んーん、私は何も…」

フワフワとした笑顔ゆったりとした話し方

私が知ってる章大だけど

シーツをギュッと握りしめて、瞳の奥は不安そうで

やっぱり、私の知らない章大がそこにいた

「あかん、私達明日仕事やねん。Aちゃん、章大の事頼むな」

そう言い残して病室をあとにしたご両親

二人きりになった私達の間に、気まずい空気が流れる

しばらくの沈黙の後

「あのっ…山田さんが、僕をここまで運んでくれたん？」

「あっ、うん。たまたま駅前で会って、いきなり安田くん倒れちゃって。すぐ救急車を呼んで、運ばれてきたのがこの病院」

我ながらこんなウソがよく思いついたものだと感心する

「僕、3日間も目覚まさへんかったみたいなんやけど、もしかして…ずっと…」

「そんな事ないよ？24時間完全看護だし、面会時間に顔出してただけだよ？」

これもウソ。看護師さんに頼み込んで病室に泊まらせてもらっていた

「ほんまに何も覚えてへんねん。ここが東京やってことすら、わからへんかった…」

寂しそうに遠くを見つめる章大の横顔を見ていたら、今すぐ優しく抱き締めたくなったけど

「大丈夫！横山先生も必ず思い出すって言ってたし。焦らず、少しずつねっ？」

「おん。そぉやね。ほんなら……

山田さんのこと、教えて？」

「んっ？私…のこと？」

「そっ。山田さんの事。僕達がいつどこで初めて会うて、どういう風に友達になったのか……って、そもそも僕等友達やったん？」

「うん、そう。“友達” だよ」

「そっかぁ。僕はええ友達持ったよなぁ。ほしたら、なるべく細かくお願いします」

ペコッと頭を下げた後、ニコッと笑った章大の顔は

私が初めて会った時の笑顔そのものだった