記憶のオクに…【青】 (ページ8)

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ベッドの脇に立った先生は

「今日から安田さんの担当になりました、横山です」

胸につけていた写真入りの名札をグイッと近づけて僕に見せた後

「すみません、少し安田さんと二人で話をしたいのですが…」

両親と山田さんに声を掛けた横山先生

3人が出て行くと、ベッドの隣に椅子を置き

「よっこいしょっ…と」

どっかりと腰を下ろした

「安田さん、気分はどぉですか？」

「頭がボーッとして、身体も重たい感じがします…かね？」

「そぉですか。ところで安田さんは関西ご出身ですか？」

「はい、兵庫です。先生もそぉなんですか？」

「僕は大阪なんです。弟がおるんですけどね。安田さんご兄弟は？」

「姉がいます」

「お姉さんと仲はよろしいんですか？」

「良い方やと思いますけど」

そこから横山先生は、たまにメモを取りながら僕の生い立ちを聞いていく

先生の話も交えて雑談のようやから、僕も覚えていることは、スイスイと言葉にすることができた

幼稚園、小中高と学校名やクラス、通学方法なんかは鮮明に覚えてるんやけど、友達や先生などのことは覚えてへん

小さい頃から仲良かった奴おった気するんやけどなぁ

「じゃあ、高校卒業して大学に進学したと思うんやけど、どこの大学やった？」

そう横山先生に聞かれたけれど、僕の記憶は高校まででパタリと止まっていた

「それが…大学からのことは思い出せへんのです」

「学校名も？」

「はい。自分が何をしとったのか、今はどんな仕事をしとるのかも全くわからへんくて」

「ほな、ちなみにここはどこやと思う？」

「…病院……」

「ふはっ、そぉやなくてどこの病院？」

「えっ…と、兵庫の病院？」

「ここ…東京やで？」

僕なんで東京なんかにおるん？

わからへん、どないしよぉ

頭の中パニックになっていると

「実は、安田さん高熱を出して、3日間目覚めなかったんよ」

「…は…ぁ…」

記憶がなくなっているのは、その高熱のせいであること

これから幾つかの検査をすることを軽く説明受けて

「大丈夫。必ず記憶は戻るから。一緒に思い出していきましょう」

僕の肩をポンとたたいて

「じゃ、ご両親と少し話してきますね」

横山先生はそう言って病室を出て行った