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お風呂から出て部屋に戻ると、間は空いているものの、並んで敷かれた2組の布団
びっくりしている私に、上目使いで“あかん？”と聞いてくる章大
いつもそうだった
“なぁ A〜。これ買ってもええやろぉ？”
何かをおねだりする時は、その上目使いをフル活用して、私が“イヤ”って言えないようにしてきた計算高い男だったけど
今の彼は計算なしの純粋くん
うん……
何かが 起きるわけがない。ただ一緒の部屋で眠るだけ
って 私、なに変に意識しちゃってるんだろう
お喋りに花が咲き、気付けば夜中の1時を回っていた
布団に入るとすぐに聞こえてくる彼の寝息
今日は1日歩き回って疲れたんだろうな
章大の気配を久しぶりに感じながら、私もすぐに眠りについた
朝、章大より早く目が覚めた
手早く朝ご飯の用意を済ませて、章大を起こしに行く
気持ち良さそうな寝顔は、どれだけ見ていても飽きない
心の中で“章大”って呼びながら
「安田くん」
肩を叩くと僅かに開いた目
「起きた？」
顔を覗き込むと
“うわぁっ”と驚き 飛び起きる章大に思わず笑みがこぼれる
私の後ろをトコトコついてきて、テーブルに座るとこも
「いただきます」って手を合わせて、美味しい 美味しいって幸せそうに食べる姿も
食器をさげると、洗い物をやってくれる優しいとこも
なんにも変わってないんだから
イヤ になる
「山田さんが仕事なんやったら、会社 行こっかなぁ」
そう言う章大と家を出て、駅前のファーストフード店で軽めの昼食
「ほんなら、またなっ♪」
「うん、じゃあね」
章大の背中を見送りながら ふと
このまま 離れていってしまいそうな不安に襲われた
すると
何度も振り返り笑顔で手を振ってくれるから
私の考え過ぎたったのかな？と、安心できた
仕事を終えて、ひとりの帰り道
どうしても思い出すのは昨日の事で
「楽しかった…な」
エレベーターの中で 思い出し笑い
玄関を開けて誰もいない家に
「ただいまぁ〜」
と言うのはどうしてもやめられない クセ
“おかえりぃ、お疲れ様っ！”
リビングからパタパタと走ってきて玄関で出迎えてくれていた彼を思い出した
そのうち 必ず また……
ソファーに座り、携帯をローテーブルに置くと
着信音
ディスプレイには“お義母さん”
章大が記憶を失くして、2ヶ月が過ぎていた
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作者名：ちか
| 作成日時：2015年8月28日 18時
