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タクシーに揺られること 15分
絡められた指を一本ずつ外しながら
「安田くん、もうすぐ着くよ？」
軽く章大の肩を揺すると
「ん、ぅ〜ん」
目を擦りながら
「ごめんなぁ、寝てもぉた〜」
目覚める姿は 変わってない
宅配ボックスに亮ちゃんが入れてくれた、章大の着替えを持って、エレベーターに乗り込んだ
「ホンマに ごめんなぁ。亮も“ひとりにしとくと心配”とか、僕 子どもやないねんから」
「でも、退院してからずっと2人でいたんでしょ？そりゃ、心配にもなるよ」
「そうかなぁ〜」
部屋の前、鞄をゴソゴソして鍵を探していると
「その外のポケットの中 ちゃう？」
「あっ、ホントだ」
「山田さん、案外 忘れん坊なんやね」
「ははっ、そうかも」
鍵を開ければ
「お邪魔しますぅ」
と、靴を揃えて上がり
「早速でなんやけど、トイレ お借りします〜」
章大は迷わずトイレに入っていった
この鞄の時に無意識で鍵を外側のポケットに入れる事
うちのトイレは玄関入って左側だって事
「なんで…覚えてるのかな？」
靴も脱がずに立ち尽くす私に
「山田さん、どないしたん？」
首を傾げて聞いてくる 章大
「ううん、何でもない。お風呂 入れてくるね」
作り笑顔で 彼に答えた
「僕 後でええよ」と恐縮する章大を無理矢理お風呂場に押し込んで、リビングにひとり
「そうだ、お布団」
ここに引っ越してくる時、お互い布団を1組ずつ持ってきた私達。エアコンはリビングに1台しかないから、ふすま一枚で続く和室に布団を並べて敷いて、ふすまを開けて寝ていた
「どうしよう…かな？」
今うちにいるのは 安田くん であって、章大 じゃない訳だし
「やっぱり 別々の部屋のがいいよね？」
押入れを開けて、布団に手をかけると
「わっ、山田さん家 お布団なん？」
髪を拭きながら、何だか嬉しそうな章大が言った
「布団で寝るのなんか、いつぶりかなぁ？ずっとベッドやったからなぁ。
あっ、僕 敷いとくから、山田さん お風呂行ってき？」
「でもっ…」
「ええからっ、はい、いってらっしゃ〜い」
手を振る章大を背中に感じながらリビングを出た
毎晩ああやって“A、風呂 入ってき？”って言いながら、お布団を敷くのは章大の役目だったな
亮ちゃん、折角チャンスくれたのに無理みたい
家の間取りも、いつも座るソファーの位置も、2人で決めた約束事も、全部 覚えてるのに
“山田さん”って呼ぶ章大といるの
やっぱり 苦しいよ
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作者名：ちか
| 作成日時：2015年8月28日 18時
