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白衣を身に纏った医者は、Aの布団を優しく掛け直す。そうして立ち上がり、高杉とまた子の横をすれ違う様に「今夜が峠だ」と呟いた。
また子は崩れ落ちそうになるのを必死で耐え、それでも堪え切れなくなった涙を隠そうと部屋を飛び出していく。
高杉はゆっくりと、足を引きずるように彼女の眠る布団の傍へ近寄った。そうしてそこに腰を降ろし、Aの頬へ指先をかすめる。
それによって薄く目を開いた彼女は、高杉をボヤけた視界に映しては引きつったように口角を上げて精一杯微笑んだ。
『……お前は、嘘吐きだな』
Aはその意味が分かったのか、申し訳無さそうに眉を垂れ下げてしまう。
高杉の言う「嘘」とは、彼女と高杉が約束した「俺の傍に居ろ」と誓った約束をAが破ろうとしていることだった。彼女は開き切らない唇からか細い息を吐き、必死で高杉のために言葉を紡ぐ。
『私を、恨んでください』
『最低だって、罵ってください……』
あの女は嘘吐きだったと、最低な女だったと。高杉にそう思われてAが望むその先の未来は、ただひとつだけだ。
『そうして、私のことを忘れないでください……』
一日に一回でも、例え一年に一回でもいいから、Aは高杉の中にいたいのである。
現在高杉の全てを独り占めしていることに彼女は気付いておらず、ただ貪欲と寡欲の間を彷徨っていた。
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まい - 999本の薔薇は「何度生まれ変わってもあなたを愛す」ですね。感動しました。 (2020年5月12日 20時) (レス) id: 7154107f34 (このIDを非表示/違反報告)
ユウ - 完結おめでとうございます。まさか、「おかえり、愛おしい人よ」シリーズと繋がっていたのだとは知りませんでした。そして感動し、鳥肌が立ちました。素晴らしい作品です! (2019年11月12日 18時) (レス) id: 7837a845b7 (このIDを非表示/違反報告)
莉緒奈(プロフ) - すごい感動しました!涙が止まらなかったです!本当におもしろくて、最高でした! (2019年2月9日 22時) (レス) id: 128bb1ac1a (このIDを非表示/違反報告)
ハル(6/17)(プロフ) - モモさん» 閲覧とコメントをどうもありがとうございます^^ 沖田もいいキャラですけど高杉も捨てがたいですよね〜〜〜!! そう言ってもらえてとても嬉しいです!! ありがとうございました( ´ ∀`) (2018年4月27日 14時) (レス) id: 0297264441 (このIDを非表示/違反報告)
モモ - 今回の作品もとても面白かったです!思わず涙ぐんでしまいました(笑)サドリーマンも好きだけど、特に高杉さんの作品が大好きです!私もどちらかと言うと高杉好きなのでwとても素晴らしい作品をありがとうございました!!! (2018年3月18日 20時) (レス) id: a467930736 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ハル | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/harumemory
作成日時:2017年8月24日 11時