6 ページ6
『ただいま〜！ちょっとパパ！聞いてないんだけど私！明日引っ越すなんて！』
家には仕事を、早上がりしたのであろうつなぎ姿で家のものを次々と運び出すパパがいた。
「おかえり、もうお前の部屋以外の運び出しはほとんど終わってるぞ。って言ってもお前の部屋以外このアパートに部屋なんてないからな笑。これからは部屋が広くなるぞ。よかったなぁ。」
豪快に笑う父。工事現場で働く父の給料はそこまで安くはないものの、やはり学費などを払いながらとなると1LDKでちょうど良かった。
もう一旦諦めて一旦部屋を掃除しよう。
衣服をまとめ、母がいる頃からずっと暮らしている20年間の思い出の部屋。それなりに思い入れもある。
私が小さかった頃にはこの部屋は寝室になっており、父と母と3人で肩を寄せ合って寝たりした。
断捨離をしようと思っていたのに、懐かしいものが次々と出てきてとんでもない喪失感に襲われる。
このハンカチ、ママが元々使っていたのに私が欲しいって泣き喚いてくれたものだったなとか、この小さな壁の傷は私が一時期DIYに憧れて棚を手作りしたがったのを聞いたパパが本気になって工具を持ち込んだ時にできたものだったなとか。
こうやってみるとかなり思い出が詰まった部屋だ。考えれば考えるほど失いたくない気持ちが強くなっていく。
「A〜！夕飯できたぞ〜！」
父の声を聞き、リビングへ出る。
美味しそうなハンバーグと付け合わせが綺麗にワンプレートに並べてあった。
本当にこの家にはもう帰れないんだと思うとなんだかお腹の底がムズムズする感じがして落ち着かない。
「どうした？顔色悪いけど食欲ないのか？」
心配そうな顔をした父を見て、一旦ハンバーグを口に入れる。食べ終わった後に、私だけでもここの家に残って一人暮らしできないか聞いてみよう。
『…美味しい。』
「そうだろ？今日でこの家ともおさらばだから奮発して国産の牛肉を買ったんだ。でも明日からは家族みんなで過ごせるからな。」
“家族みんなで”
優しい顔をして、そう言う父に喉まで出かかっていた言葉を飲み込む。
寂しがりやの父は高校を卒業した時に私が一人暮らしをしたいと言ったのも絶対に許してくれなかった。
ここで私がここに留まりたいと言ったら、なんだか私だけが前に進めていないような気がしてやっぱり何も言えなかった。
代わりにお腹の底でムズムズするようななんだか居心地の悪い感じが残ったままだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 636人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
蒼色(プロフ) - ななさん» ななさん、こんにちは。そうなんです笑。ちょうど半日ぐらい違って皆さんが読みやすい夜に投稿ができないことも申し訳ないです💦続編でも是非よろしくお願いします！ (8月26日 0時) (
レス) id: 3f04ad914f (このIDを非表示/違反報告)
なな(プロフ) - カナダにいらっしゃったんですね…‼︎なんとなく時差はあるのかなと感じていました笑。続編もお供させてください！笑笑笑 (8月25日 23時) (レス) @page50 id: 3dac742d50 (このIDを非表示/違反報告)
蒼色(プロフ) - asさん» asさん、こんにちは。そんな日課の一部にしてくださるなんて嬉しすぎて感激です。続き今アップしました。このお話を読んでくださりありがとうございました。 (8月25日 23時) (レス) id: 3f04ad914f (このIDを非表示/違反報告)
as(プロフ) - 前作からお話読ませていただいてます！最近は朝起きてからと夜寝る前にこのお話読むのが日課でした…。続編を今か今かと待ちわびてます (8月25日 21時) (レス) id: ca05a930ec (このIDを非表示/違反報告)
蒼色(プロフ) - ゆかさん» ゆかさん、こんにちは。そんなこと言っていただけるなんて嬉しいです。続編も是非是非よろしくお願いします！ (8月25日 21時) (レス) id: 3f04ad914f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：蒼色 | 作成日時：2023年8月17日 0時
