62 HSside ページ13
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「テヒョン君のお父さんはどんな仕事してるのかな？」
「うーん、よく知らない。すごい高いビルの最上階で、おっきな部屋の中で椅子に座ってる。子供の頃はよくお父さんの会社に遊びに行ったけど…最近は行ってないから」
「どうして？」
フードコーナーでおにぎりを頬張っているテヒョン君は、口の中に入っているものをもぐもぐと咀嚼し飲み込んでから、俺の質問に答えた。
「父さんは俺に自分の仕事を継いで欲しいみたいなんだ。周りもそれを望んでることはわかってる。でも俺は自分の夢があって、その夢の為には父さんの会社を継ぐことはできない。それに…そろそろお見合いしろとも言われて。だから俺、父さんに反発して家出した。家出したんだけど…それでわかったことがある」
「わかったこと？」
「うん…、俺の過ごしてきた環境がどんなに甘いもんだったかってこと。欲しいものは何でも手に入って、何もしなくてもジミナやジョングクが俺の面倒を見てくれて。なんの苦労も知らなかった。一歩外に出たら、みんながみんな優しい人ばかりじゃない。ヌナに出会ってなかったら俺どうなってたんだろうって…考えると今も怖い…」
確かにヌナがテヒョン君の面倒を見ていなければ、人を信じやすいテヒョン君は悪い人に騙されていたかもしれない。社会に疎い彼を甘い言葉で唆すのは簡単。ましてやテヒョン君の家柄を知った後なら、幾らでも利用価値はある。
ヌナに出会ってなかったらか…。
俺もナムジュナも、それは同じ。
一人の女性の幸せを、彼女でもない人の幸せを。
こんなにも願ったりしなかっただろう。
「縁って不思議だよな…」
「ホソクさん？」
「ヌナがテヒョン君をここに連れて来なければ、俺達は出会うこともなかったかもしれないだろ？こうして一緒に働いて、語り合って。で、同じ人を慕ってる」
「ホソクさんもヌナのことが好きなの…？」
「そんな不機嫌そうな顔しない。俺がヌナを好きなのは姉みたいな感情だから」
「よかった…俺これ以上ライバル増やしたくないもん」
本当は、それだけの感情ではないんだけど。
それは俺だけの秘密。
「ヌナにカトク送っちゃおうかな。夜ご飯何がいいか聞かないと」
「テヒョン君リクエストされたもの作れるの？」
「サラダだけなら」
満面の笑みで返され、「サラダだけね…」と俺はテヒョン君に聞こえないように呟いた。
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作者名：bluemoon
| 作成日時：2021年3月7日 13時
