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「A先輩。少しお話いいですか？」
「え…、」
部署へと戻るエレベーターを待っている私に声をかけてきたのは、受付嬢をしているイさんだった。小柄でふわふわとした印象が可愛いと、彼女の評判はよく耳にしている。
軽く挨拶程度の仲だが、彼女は今私の事を親しげに先輩と呼んだ。
同じ課の接点もないただの顔見知りの私を。
「私に何か用があるの？」
「あの…用と言うか。私、テテミンキッチンの常連なんです」
「えっと、テテミンキッチンって？」
「知らないんですか！？テヒョン君とジミン君が営業しているお店のこと。テヒョン君のお姉さんなんですよね？」
知るわけがない。
初めてお店の名前を聞いたし、そもそも私は一回しか利用した事がないんだから。
その前に私はテヒョン君のお姉さんじゃないんだけど…。
「そんな名前だったかも。テヒョン君…テヒョンお店のこととか私に言わないから」
「へぇ、そうなんですか。店員さんがイケメン揃いだってSNSとかでも人気なんですよ」
「今度検索してみるね」
確かにイケメン率は高いかも。テヒョン君を筆頭に、可愛いらしいジミン君、なんでもそつなくこなしそうなジョングク君。
初めてお店に行った時も、女の子の客層多かった記憶がある。
「A先輩にお願いがあるんですけど…。」
「お願い？」
「はい…。私テヒョン君のファンで、お友達になりたいなって。それとなくお姉さんから言ってくれませんか？ご無理は重々承知してます。でも、ずっとテヒョン君とお話がしたいと思ってたんです……お願いします！」
「あ、そうなんだ…。」
「これ、私の連絡先です。よろしくお願いします」
強制的に握らされたイさんの連絡先。
困ったような、でも後輩に頼りにされて嬉しいような。
私に頭を下げて仕事場に戻って行くイさんの後ろ姿を見つめていると、後頭部に鈍い痛み。
「いつまで油売ってんだ？」
「ユンギ、叩くことないじゃない…。」
「迎えに来てやったんだろ？早く乗れ」
ユンギに促されエレベーターに乗り込む。階ボタンを押すユンギの細く白い綺麗な指先。じっと見ている私に、ユンギは「あのイって女、アイツには気をつけろ」と訳の分からない忠告をしてきた。
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作者名：bluemoon
| 作成日時：2020年9月19日 9時
