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「ヌナ…今…俺にキス…、」
「テヒョン君、涙止まった？」
「う、うん…。でも、」
「でも？」
真っ赤になった顔を見ないでと、テヒョン君は両手で自分の顔を覆った。指の隙間からチラチラと私を見ては、何か言いたげで。
けど、何も言わない。
「そろそろ仕事に戻らないと。テヒョン君もお仕事の途中だよね？」
「仕事の途中って言うか、勝手に抜け出してきたから…。」
「え、大丈夫なの？」
「後でちゃんと怒られるから…多分大丈夫。それよりもヌナ…あの…。」
俯いたまま私の袖口を掴んでいるテヒョン君の歯切れの悪さに、どうかしたの？と顔を覗き込めば、「ヌナ…近い…。」とテヒョン君は顔を逸らした。
いつもなら積極的なのに、なんだか調子が狂う。
仕事に戻ろうと立ち上がる私の指先を、不意にテヒョン君が強く握った。
「何か言いたいことあるんだよね？」
「ヌナにお願いがあって…。」
「お願い？私にできることなら、」
「ヌナにしかできない。ヌナにしかして欲しくない……もう一回キスして欲しくて…ヌナ、俺のお願い聞いてくれる？」
「あ、えっと…。」
まさかのテヒョン君のお願いに、できることなら言ってと言葉にした事を少し後悔。あの時は慰めてあげたくて無意識にした事で、キスだけを目的とした今の状況に戸惑ってしまう。
「テヒョンさん、あまりAさんを困らせない方が、」
「ジョングクは後ろ向いてて！俺はヌナにお願いしてるんだから」
「わかりましたよ…。Aさん、こうなるとテヒョンさん意地でも諦めませんよ。パパッと済ませてあげてください」
「いや、そんな簡単に言わないで…、」
大人の対応で私達から背を向けるジョングク君。それに比べてテヒョン君は、目を閉じてキス待ち顔で私に唇を向けている。
チュッと一回するだけ。
それで満足して、帰ってもらおう。
「す、するからね」
「ん…ヌナ来て…。」
テヒョン君の頬を両手で包み、唇を重ねる。
ほんの一瞬、簡単なもの。
「ヌナとキスしちゃた…すごい柔らかい…。」
「じゃあ、私行くからね」
「俺ヌナとのキス、クセになりそう…ヌナもう一回、」
「ダメだから！」
仕事場へと戻って行く私に、「後でならいいのー？」ってテヒョン君の呑気な声が聞こえて、私はため息を吐いた。
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作者名：bluemoon
| 作成日時：2020年9月19日 9時
