17日目 涼 ページ20
8月17日 橋本涼。
翌日になると、集中治療室から元々の部屋に移される。
瑞稀も少しだけだけど起き上がれるようになって、
俺と話もできるようになった。
井上：ねぇ、涼？
橋本：ん？
井上：人間ってさ、儚いからいいんだと思わない？
橋本：え、？
そういうと、瑞稀は隣にある棚を指さした。
そこに入っていたのは2冊の本。
橋本：動物図鑑？と、昆虫図鑑？
井上：生き物って色々いるんだ。セミみたいに1週間しか生きられないものもいれば、亀みたいに100年くらい生きられるものもいる。
瑞稀は図鑑を手に取ってそう話した。
井上：それでも、俺は思うの。人間ほどもがいてもがいて人生を終える生き物なんていないんじゃないかって。
橋本：うん、、、
井上：だからこそ、人間って死ぬときにあっという間だったなって思うんだろうな、、、
橋本：そうなのかな、、、
井上：そうだよ。みんな、過ごしてきた人生がいろんな意味できっと濃かったから。だから、死にたくない。こんな人生、あっという間だったなって思うんだと、思うんだ。
少し震える声を絞り出すように言った彼の目は俺のことを捉えていた。
井上：でも、俺ってさ。なんか、しょーもない人生で思い出だって特にないし、病気で苦しむことも多いけど、苦しんでるときは大体気を失ってて、頑張ってくれているのは俺を必死に生かそうとしてくれてる松村先生とかでさ、実際、俺にはなにもないって、そう思ってるんだ。
そんなことない。そう言いたかったのにそんな言葉は薄っぺらくて、外には出ていかなかった。
井上：だから、生きてる価値なんてないはずなのに、死にたくないって、
馬鹿みたいだよね。俺。
そんな言葉を続けて、俺に延命治療を望まない書類を押し付けてきた。
井上：これ、松村先生に出しておいて。
橋本：え、？
井上：、、、俺が望んでも、親が望まないなら、やるだけ無駄だから。
橋本：なんで？瑞稀が望んでるならそれでいいじゃん！！
井上：俺が、どんなに生きたいって言ったって、それを望んでいる人がいないなら生きる価値なんてない！！どうせ死ぬんだから、早く死んだほうがいいだろ！？
橋本：っ、
井上：もう帰って。
橋本：でも、
井上：いいから！！早く帰ってよ！！
瑞稀が投げつけたバインダーが窓際に置かれた写真立てにぶつかった。
カシャン、
橋本：また、明日くるから。
音を立てて割れたそれを切なそうに見つめる彼に、俺はなにもしてやれなかった。
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わーちゃん - 面白い (2022年3月9日 19時) (
レス) @page2 id: 3919d3be97 (このIDを非表示/違反報告)
IRA(プロフ) - 面白かったです！更新楽しみにしてます！ (2021年11月23日 9時) (レス) @page20 id: ec14ef5c84 (このIDを非表示/違反報告)
しずく - すごく面白かったです。更新を楽しみにしています。 (2021年3月5日 20時) (レス) id: 0ac6e112f4 (このIDを非表示/違反報告)
き〜 - 続きみたいです！ 更新楽しみにしてます！ (2021年1月30日 19時) (レス) id: be0313a077 (このIDを非表示/違反報告)
あおいろ(プロフ) - パセリまみれさん» 慎太郎くんにさせていただきました！いつもコメントありがとうございます！！ (2020年8月13日 15時) (レス) id: 7095de8d74 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：あおいろ x他1人 | 作成日時：2020年7月22日 19時
