もっぱら、君ばかり。（ar×in） (ページ11)

今日:2 hit、昨日:2 hit、合計:39,363 hit

はじまりは突然にページ11

「大ちゃん、泊めてぇ」

キッカケは大学の飲み会で酔いつぶれたいのちゃんが突然俺の家に押しかけて来たことだった。

「え？どしたの急に」

放っておけるわけなくてとりあえず家に入れたけど、いのちゃんが来るのなんて久しぶりだし、部屋は片付いてないし、動揺は隠せなくて。

聞いてみれば、近くで飲んだはいいけどタクシーがなかなか捕まらなくてフラフラ歩いてきたらしい。

よく覚えてたな、俺ん家…

「ん…きもちわるい、水…」

ソファでぐったりとするいのちゃんに慌てて水を手渡す。

火照った肌とトロンとした瞳がやけに色っぽくて目に毒だった。

「大ちゃん、本当にゴメンなさい」

それから、トイレとお風呂を貸してあげると、いのちゃんは少し吐いて熱いお湯を浴びて、酔いが覚めたらしい。

普段の冷静な様子が戻って、自分のした事に気付いたらしく青ざめた顔で俺に深深とお辞儀をした。

すごく珍しい姿でドキッとしてしまう。

「俺、帰るわ…この服洗って返す。夜遅くに本当にごめんね。ありがとう」

「いやいや、もう遅いから泊まってきな？」

こんな時間に、少しは覚めたとはいえ酔って湯上りないのちゃんを一人で帰すなんて出来るわけがなかった。

寝室に押し込んで「俺はソファで寝るから」と、おやすみを告げると、いのちゃんはそれは申し訳ないと、頑なに譲らなかった。

ラチがあかないので、俯くいのちゃんを無理やり俺のベッドに連れ込んだのが運の尽きだった。

「…大ちゃん、ありがとう、ごめんね」

俺に背を向けて布団にくるまったいのちゃんが小さく呟いた。

「どんだけ謝んだよ」

「だって…」

今にも泣きそうな声でしゅんと口ごもるいのちゃん。

「なんかあるなら言えよ」

「…」

「俺に言えないこと？」

「ちが、…その、」

「はあー…いいよ、別に無理しなくて」

いのちゃんにはいのちゃんの世界があるから、そう思って吐いた言葉だったけど、横でいのちゃんの鼻をすする音が聞こえて。

慌てて寝返りを打った。

「え、泣いてんの？ごめん、俺なんか気にさわること言った？」

「う…だって…」

いのちゃんがなんで泣いてるかわからなくて、知らず知らずいのちゃんのダメな部分に踏み込んだ自分が許せなくて、必死に背中をさすった。

「おれ、だいちゃ…に、引かれちゃった…」

ぐすんぐすんと泣きながらいのちゃんが口にした言葉は想像もしてなかったことだった。