もっぱら、君ばかり。（ar×in） (ページ1)

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絡む指先ページ1

「大ちゃん、手ぇ繋いで？」

少し肌寒くなってきた帰り道、二人でタクシーを降りたところでいのちゃんが擦り寄ってきて言った。

「え？もう着くよ笑」

「いいから繋いで欲しいのー！」

プクッとほっぺを膨らませておねだりしてくる。

既に腕を絡めてきているというのに、繋ぐのは俺からがいいらしい。

歳下の恋人に主導権を握らせるあざとさに、またひとつ好きが積もった。

「はーっ…ほら、これでいいの？」

冷えた手をとって指を絡める。
わがままなお姫様はぎゅっと握り返して満足気に笑った。

「大ちゃんの手、意外とゴツゴツしてて好き。」

「そう？いのちゃんは指が長くて綺麗だよね。」

「好き？」

「うん、好き」

「…へへ」

他愛もない話を少しすれば、もう家に着いてしまう。
いのちゃんは名残惜しそうに親指で俺の手の甲を擦りながら繋いだ手を眺めた。

「なぁに？寂しいの？」

「そんなことないもん」

また繋げばいいし、って言いながら自分から手を離したいのちゃん。

知ってるよ、普通のカップルみたいに堂々とイチャついたり触れ合ったりしてみたいんでしょ。

淡白そうに見えて意外とロマンチストなんだってこと、最近知った。

誰にも言いたくないけど、誰かに見せつけたい、そんな恋だから。

タクシーの中では触れそうで触れない指先を近付けたいのを必死に我慢してた。いのちゃんは計算高いんだ。

ドアが閉まれば誰からの視線も気にしなくて済む。
完全に二人きりになったら、たくさん甘やかしてやろう。

「いのちゃん、おかえり。」

「ただいま。大ちゃんもおかえり」

「うん、ただいま。」

初めて一緒に帰宅した日、一歩先に入っておかえりって言った俺を、いのちゃんはバカにするかなぁと思ったけど案外嬉しそうにしてて。

聞けば、「すぐ横にいるのに大ちゃん意外と律儀なんだね」って笑ってた。

それが可愛くて、一緒に帰ってもおかえりとただいまは必ず言うようにしてる。

「明日も履くから」って理由で出しっぱなしのいのちゃんの靴を片付けるのも、

「オートロックだから」って鍵を見ないいのちゃんに変わって戸締り確認するのも、ぜんぶ俺の仕事。

「大ちゃん細けぇ笑」って言いながら直さないんだから、いのちゃんは世話を妬かれるのが嫌いじゃないらしい。

「いのちゃん、ほら、手洗いうがいして」

「はぁ～い」

なんやかんや俺も、そんないのちゃんを可愛いと思ってしまうのだからお互い様なのだ。